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札幌地方裁判所 昭和52年(行ウ)15号 判決

原告 松田静江 外八名

被告 北海道知事

訴訟代理人 井上經敏 菊池至 田原国雄 ほか六名

参加人 北海道電力株式会社

主文

本件訴えをいずれも却下する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告ら

1  被告が昭和五一年八月三一日付で参加人に対してした消防法第一一条第一項の規定に基づく伊達発電所移送取扱所の設置許可処分を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告

(本案前の答弁)

主文同旨

(本案の答弁)

1 原告らの請求をいずれも棄却する。

2 訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  被告は、参加人が昭和五〇年九月八日付でした左記概要による移送取扱所(以下「本件移送取扱所」という。)の設置許可申請(以下「本件申請」という。)に対し、昭和五一年八月三一日付で消防法(昭和四九年法律第六四号による改正後のもの。以下「法」という。)第一一条第一項の規定に基づきその設置許可処分(以下「本件処分」という。)をした。

(本件移送取扱所設置計画の概要)

(一) 名称    伊達発電所移送取扱所

(二) 設置場所

(起点)        室蘭市陣屋町一七三番地

(終点)        伊達市長和町一六九の一番地 北海道電力伊達発電所

(経過地)       室蘭市陣屋町―同崎守町―伊達市北黄金―同稀府―同清住―同長和町

(三) 配管

(延長)        二五・七二二キロメートル

(外径)        三一八・五ミリメートル

(条数)        一条

(四) 送油油種  原油及び重油

2  しかしながら、本件処分は以下に述べるとおり違法である。

(一) 本件処分には、次に述べるとおり手続上の違法がある。

本件移送取扱所のように環境に重大な影響を及ぼし、かつ重大な災害をおこすおそれのある危険な工作物の設置を許可するに際しては、被告は、憲法第三一条の規定により、地域住民に対しいわゆる環境影響事前評価手続を内容とする告知聴問の機会を与え、地域住民の不安、疑問を解消すべき法律上の義務を負つているにもかかわらず、参加人に環境影響事前調査を行わせなかつたし、被告自らもこれを行わなかつただけでなく、本件申請書、その付属書類等の資料を地域住民に公開せず、地域住民の不安、疑問を解消する努力を怠つた。また、被告は、昭和五〇年八月、本件移送取扱所の設置許可申請については、「地権者の了解を得る。関係住民に説明会を徹底する。反対団体と話合いを煮詰める。伊達、室蘭両市長の了解を得る。」との四条件が満たされなければ受理しない旨言明していたにもかかわらず、これらの四条件が満たされていないのに本件申請を受理したのであつて、これは地域住民に対する重大な背信行為である。更に、被告は、本件移送取扱所の設置についての伊達市長の意見が提出された翌日に本件処分を行つているのであつて、伊達市長の意見に対し相当な考慮を払つたものとはいえず、法第一一条第四項に違反した。更にまた、被告は、地方公共団体の長として、一般的に環境を保全し、住民の安全、健康、福祉を保持する責務があり、本件移送取扱所の設置の許否を審査するにあたつては、その安全性及び環境保全について審理する責任があるにもかかわらず、参加人寄りの片寄つた立場で審査し、本件移送取扱所の安全性及び環境保全について十分な審理をしなかつた。

(二) 本件移送取扱所は、法第一〇条及び危険物の規制に関する政令(昭和四八年政令第三七八号による改正後のもの。以下「政令」という。)第三条に規定されている取扱所のうち「移送取扱所」に該当するものであるところ、法第一一条第一項は、移送取扱所が二つの市町村以上の区域にまたがつて設置される場合には都道府県知事の許可を受けなければならない旨規定しており、本件移送取扱所が室蘭市及び伊達市にまたがつて設置される計画であることから、被告の設置の許可が必要となる。また、法第一一条第二項は、許可権者は、取扱所の位置、構造及び設備が法第一〇条第四項の技術上の基準に適合し、かつ、当該取扱所においてする危険物の貯蔵又は取扱いが公共の安全の維持又は災害の発生の防止に支障を及ぼすおそれがないものであるときは、許可を与えなければならない旨規定している。そして、法第一〇条第四項は、取扱所の位置、構造及び設備の技術上の基準は、政令でこれを定める旨規定し、右規定を受けて政令第一八条の二は、移送取扱所の位置、構造及び設備の技術上の基準は、石油パイプライン事業法(昭和四七年法律第一〇五号)第五条第二項第二号に規定する事業用施設に係る同法第一五条第三項第二号の規定に基づく技術上の基準に準じて自治省令で定める旨規定し、右自治省令の定めとして危険物の規制に関する規則(昭和四九年自治省令第一二号による改正後のもの。以下「規則」という。)第二八条の二から第二八条の五三までの規定があり、更にその細目の定めとして危険物の規制に関する技術上の基準の細目を定める告示(昭和四九年自治省告示第九九号。以下「告示」という。)がある(右規則の各規定及び告示の各規定を、以下「技術上の基準」という。)。

ところで、本件移送取扱所は大災害を発生させる可能性があるから、本件処分は法第一一条第二項に違反し、違法である。

二地点間に大量の石油類を定常的に輸送しようとする高圧パイプラインは、必然的に、その通過地域に大災害をもたらす。すなわち、その石油類が重油であつたとしても、通常の生活内に普通に存在する木材や紙などに比して燃えやすく、しかも、単位容積当りの発熱量は極めて大きく、一旦発火した場合は大火災となる可能性が高い。また、タンクローリーや貨車による輸送では、石油類が局地的に存在しているのであるが、パイプライン輸送においては、大量の石油類がその沿線地域に連続的・恒常的に存在しているので、事故の際の被害の程度は前者に比して著しく大きくなる。更に、流体が高圧下に移動しているので、パイプ破損が生じた場合には、仮に保安装置が正常に作動したとしても一定量の高圧の石油類の流出はまぬがれず、送油が停止した後も常圧の石油類が大量に管内にとどまるため、管勾配によつて破損部分から流出を続けることになる。

そして、本件移送取扱所が設置される伊達地方は、次に述べるように自然的に悪条件下にあるので、本件移送取扱所の送油管(以下「本件送油管」という。)が破損するおそれが強い。

(1) 伊達地方は、太平洋海底下に震源をもつマグニチユード八前後の巨大地震の常襲地域の西端に位置するとともに、そのすぐ西方に現在活動中の有珠山を抱えているため、火山性地震の頻発する地域である。また、活断層の活動に伴う浅発地震が発生する可能性もある。したがつて、本件送油管を破損させるような地震は発生しないと断定することはできない。

(2) 本件送油管が敷設される地域は地下水量が多く、地下水位が地下二メートルよりも浅いところが、その径路の八〇パーセントを占める。そのため、本件移送取扱所の設置工事(以下「本件工事」という。)の際に地下水が大量にあふれ出し設計段階で予定した通りに置換砂を十分締め固めることが不可能となつた。また、本件工事後においても、本件送油管が地下に存在することにより、或いは地下一ないし二メートルの深さに透水係数の大きい置換砂が一平方メートルの断面をもつて存在することにより地下水流に大幅な条件変化を与え、この変化により湿地化或いは乾地化する地域が生じる。したがつて、本件送油管の支持地盤の安定を保つことは困難である。しかも、置換砂は地下水流の浸透作用を受け続けて締固めが緩み、ついには流出して空洞を形成する可能性が強い。更に、鋼矢板の引抜きの際生じた空隙が放置されたため、右空隙を通つて水を含んだ置換砂が地表面まで溢れ出て地中の置換砂が減少し空洞が増加している。本件送油管の下部に空洞が形成されると、本件送油管に作用する鉛直土荷重は管直上の土柱重量だけでなく周囲地盤からの摩擦力を加えたものになり、管の長手方向に八メートル程度にわたつて管が下方に数センチメートル移動してしまうような空洞が発生した場合には、管に作用する曲げ応力は本件送油管の材料の降伏点強度を超え、本件送油管の安全性は失われる。また、空洞が地震、重車両の荷重等の刺激で崩壊、陥没した場合には、土圧が左右、上から作用し、本件送油管が破損する可能性がある。

(3) 本件送油管の設置径路の三分の一はシラス、深い砂質土、湿地帯などの軟弱地盤であるため、地盤が不等沈下し、その結果本件送油管が破損する可能性がある。

(4) 参加人は伊達市館山地区の標高六〇メートルの館山台地を本件送油管の設置径路に選定し、新設のトンネルで通過することとした。ところで、館山台地を構成する洞爺カルデラの噴出物は豪雨に際しては非常に洗掘されやすく、或いは流出を起こしやすいうえ、えびの地震の例で知られているように地震に際しては液状化しやすいという性質を有しているのであるが、このような性質をもつ土層の工学的諸問題、特に設計、施工法上の問題には今日なお未解明の点が多い。また、地下水についての事前調査が十分でなかつたため、館山トンネルの掘削工事中のみならず、工事完成後においても大量の出水が続いており、この出水がトンネル周囲の土層を浸食している。トンネルは工事中から完成後の維持管理にいたるまで、他の構造物に比べて地質条件の影響を大きく受けるのであるが、右のとおり館山トンネルの地質条件は劣悪であるからトンネル自体の安定性を保つことができず、したがつて、トンネル内に設置される本件送油管の安定性を保つこともできない。

また、技術上の基準は具体性のない規定が多く、移送取扱所の位置、構造及び設備の技術上の基準としては極めて不十分であるばかりではなく、地中埋設管の事故例のほとんどは「外力による軸方向応力度」によつて生じているにもかかわらず、技術上の基準では「内圧による円周方向応力度」によつて設計するようになつている点(告示第一二条)、地震動の作用によつて地下埋設管がこうむる損傷の原因は地盤の弾性振動ではなく地震動終了後に地盤中に残留する塑性変位であるのに、技術上の基準では設計基盤面に入射した地震動によつて弾性的に振動する地盤中に生じる弾性変位によつて損傷されないことと規定している点など誤りすらみられる。したがつて、仮に技術上の基準をみたしているとしても本件移送取扱所の安全性が保証されるものではない(後記(三)記載のとおり本件移送取扱所は技術上の基準に違反している。)。

更にまた、本件工事の施工要領には溶接時の気象条件、溶接場所の土質条件の変化に対処する方法について明確な定めがなく、本管の溶接を何層に分けて行うか、溶接で生じた欠陥の除去、手直しをどのように行うかについて決められていないため、右の諸点は溶接者個々人が判断することになり、本件送油管全体を通してみると、いかに有資格者が行つたとしても溶接部分が著しく不均一にならざるを得ないことに加えて極めて湿度の高い環境下の溶接、溶接棒の管理の悪さなどのため溶接部分の材質が劣悪化していること、他工事により直接本件送油管が損傷を受け、或いは本件送油管の埋設場所付近が掘削されて土の性状が変化し、本件送油管が不安定な状態におかれ、地盤の不等沈下、本件送油管の水平方向への移動が生じること、その他、腐食、送油ポンプ停止時或いは弁の急開閉時に生じる異常圧力、凍上凍結による地盤の移動なども本件送油管の破損の原因となる。

本件送油管は、右に述べたとおり破損の可能性を有しているにもかかわらず、集落を貫通し、人家の軒先を通り、通行量のかなりある道路に沿つて埋設されるため、火災を伴う大災害の発生する危険性があるのであつて、本件移送取扱所の計画自体誤りである。

(三) 本件移送取扱所は、次に述べるとおり技術上の基準に違反するものであるから、本件処分は違法である。

(1) 規則第二八条の三第一項第三号は、狭あいな道路に移送取扱所を設置してはならない旨規定している。

しかしながら、本件移送取扱所は、随所で幅員五メートル以下の狭あいな道路に設置されることになつており、右規定に違反する。

(2) 規則第二八条の四及び告示第五条は、配管の材料は日本工業規格G三四五四「圧力配管用炭素鋼鋼管」、日本工業規格G三四五五「高圧配管用炭素鋼鋼管」、日本工業規格G三四五六「高温配管用炭素鋼鋼管」又は日本工業規格G三四五九「配管用ステンレス鋼鋼管」に適合するものでなければならないものとしている。

しかしながら、本件送油管の本管としてAPI(米国石油協会)規格五LX(ハイテストラインパイプ)―X五二、同五LX―X五六及び同五LX―X六〇の鋼管が採用されることになつており、右各規定に違反する。

(3) 規則第二八条の五は配管等の構造について規定し、告示第六条から第一七条はその細目を規定している。

しかしながら、参加人は本件申請にあたつて、土圧計算においては、埋設深さを実際より浅い一・五六メートルとし、送油管の外径を実際より小さい三一八・五ミリメートルとして計算し、鋼管杭支持の構造を用いるにもかかわらず、杭等で支持されている場所の土圧計算を行わず(告示第一一条第二号違反)、二か所で鉄道線路の下を横断するにもかかわらず列車荷重の計算を行わず(告示第一一条第四号違反)、地震の影響によつて生じる配管の応力度の計算においては、せん断弾性波速度は実測可能であるにもかかわらず、標準貫入試験により求められたN値から推定した数値を用い(告示第一三条違反)、また配管の曲り部のたわみ性及び応力集中を考慮しておらず(告示第一六条第一号違反)、告示の規定に違反している。

(4) 規則第二八条の六及び告示第一八条は、配管の有害な伸縮を吸収する措置としては原則として曲り管を用いる旨規定している。

本件移送取扱所においては、地上部では曲り管を用い、地下部では土壤拘束により配管の有害な伸縮を吸収するとされているが、曲り管については前記(3)で述べたとおりたわみ性及び応力集中が考慮されていないし、土壤拘束は有効な伸縮吸収措置にはなり得ないので、右各規定に違反している。

(5) 規則第二八条の八及び告示第一九条から第二一条までは配管の溶接について規定している。

本件移送取扱所においては、緊急しや断弁の袖管長が三〇〇ミリメートルであるのにこれに接続される管の管径は三〇一・二ミリメートルであるから溶接の間隔が管径以下となつており(告示第二一条第一号イ違反)、また本件申請書添付の資料に記載されているしん出し治具では正確にしん出しできないばかりではなく、配管に傷をつけるおそれもある(告示第二一条第二号)など告示の規定に違反している。

(6) 規則第二八条の九及び告示第二二条は防食被覆について規定している。

本件移送取扱所においては、防食被覆として硬質ポリウレタン、ガラス繊維強化塩化ビニール(FRV)、ポリエチレンを用いることとされており、告示第二二条第一号ロに規定されている覆装材を用いていないばかりか、同号イに規定されている塗装材を用いておらず、右各規定に違反している。

(7) 規則第二八条の一〇及び告示第二三条は、電気防食措置について規定している。

本件申請においては、電気防食措置を施す場所及び電位測定端子の設置場所が明らかではなく、右各規定に適合しているとはいえない。

(8) 規則第二八条の一一は、配管等に加熱又は保温のための設備を設ける場合は、火災予防上安全で、かつ、他に悪影響を与えないような構造としなければならないと規定している。

しかしながら、本件移送取扱所においてはセクト管によつて加温することになつているが、これが他に悪影響を与えることは参加人が行つた実験の結果から明らかであるし、セクト管を本管に溶接するため本管の材質劣化が生じること及びセクト管内のケーブルの安全性に疑問があることなど火災予防上安全な構造になつておらず、右規定に違反している。

(9) 規則第二八条の一二及び告示第二四条から第二七条までは、地下埋設について規定している。

このうち、〈1〉規則第二八条の一二第三号は配管の外面と地表面との距離は山林原野にあつては〇・九メートル以下、その他の地域にあつては一・二メートル以下としないことと規定しているが、本件送油管は右のその他の地域に該当する地域に埋設されるにもかかわらず、崎守トンネル内及び伊達市道黄金一号線大谷地付近で右距離が一・二メートル以下になつており、右規定に違反し、〈2〉規則第二八条の一二第四号は配管は地盤の凍結によつて損傷を受けることのないよう適切な深さに埋設することと規定しているが、本件移送取扱所においては地盤の凍結深さについて実測されたことがないので、適切な深さに埋設されているか不明であつて、右規定に違反しており、〈3〉規則第二八条の一二第五号及び告示第二六条は盛土又は切土の斜面の近傍に配管を埋設する場合は安全率一・三以上のすべり面の外側に埋設する旨規定しているが、本件移送取扱所においては斜面安定計算に必要な土質定数及び地下水位について推定値を用い、或いは資料としての意味がない地下水位の最も低い冬期における実測値を用いているのであつて、右規定に違反しており、〈4〉規則第二八条の一二第六号は配管の支持条件が急変する箇所については曲り管のそう入、地盤改良その他必要な措置を講じる旨規定しているが、伊達市道黄金一号線大谷地付近は右の支持条件が急変する箇所に該当するにもかかわらず地盤の改良その他必要な措置が講じられておらず、右規定に違反しており、〈5〉規則第二八条の一二第七号及び告示第二七条第五号は配管のまわりを砂又は砂質土を用いて十分締め固める旨規定しているが、本件移送取扱所においては地下水及び雨水の浸透を防ぐことができないため、十分締め固まつた状態にならず、右規定に違反しているのみならず、十分締め固まつた状態にならないと告示第一二条第二号に規定する配管にかかる応力度の計算方法の前提が異ることになり、右規定に違反する結果となるし、また告示第二七条第一号は配管をできるだけ均一かつ連続に支持するように施工しなければならない旨規定しているが、本件移送取扱所においては掘削溝の底面に岩石を敷き、或いは塩化ビニール系のパイプを埋設するため、右規定に違反する結果となつている。

(10) 規則第二八条の一三第四号は、市街地の道路下に埋設する場合は防護工を設けるか防護構造物の中に設置しなければならない旨規定している。

しかしながら、伊達市の将来の都市計画を考えると南稀府地区及び竹原地区は市街地として取り扱うのが妥当であり、その他の地区も市街地に準じる取扱いをするのが妥当であるにもかかわらず、南稀府地区、竹原地区、清住地区及び館山地区などにおいて本件送油管は道路下に埋設されるにもかかわらず防護工、防護構造物の措置が講じられておらず、右規定を満足しているとはいえない。

(11) 規則第二八条の一六第二号並びに告示第三二条第一号及び第一四号は、地上配管は道路、住宅から二五メートル以上の水平距離を有しなければならない旨規定している。

しかしながら、本件移送取扱所においては気門別川、紋別川、チマイベツ川、ペトトル川(二か所)の各横断部で地上配管と道路との水平距離が二五メートル未満であり、地上配管と伊達市末永町一七五番地大阪清勝宅及び室蘭市石川町一八三番地曽根清孝宅との水平距離が二五メートル未満であり、右各規定に違反している。

(12) 規則第二八条の一九第二項は、道路を横断して配管を埋設する場合は、配管をさや管その他の告示で定める構造物の中に設置しなければならない旨規定している。

しかしながら、本件移送取扱所においては室蘭市道石川二号通線交差点、伊達市道元浜旧道交差点などの交差点付近の道路横断部で、配管がさや管その他の告示で定める構造物の中に設置されておらず、右規定に違反している。

(13) 規則第二八条の二一は河川等横断設置について規定しているところ、本件申請では本件移送取扱所の河川横断箇所は一八か所とされているが、実際の河川横断箇所は二七か所であるから、右規定を無視した箇所があり違法である。

また、同条第三項は配管の外面と計画河床高との距離を定めているが、本件移送取扱所においては河川管理施設等構造令(昭和五一年政令第一九九号)第二条に違反して計画河床高が定められた普通河川があり、右規定に違反している。

(14) 規則第二八条の二二及び告示第三九条第五号は、砂質土等の透水性地盤の中に配管を設置する場合は、漏えいした危険物の拡散を防止するため堅固で耐久力を有し、かつ、配管の構造に対し支障を与えない構造物の中に設置しなければならない旨規定している。

しかしながら、本件移送取扱所においては透水性地盤である牛舎川及び谷藤川の扇状地において右の構造物の中に配管が設置されておらず、右各規定に違反している。

(15) 規則第二八条の二三は、配管を設置するために設けるトンネルには可燃性蒸気が滞留しないよう必要な措置を講じなければならない旨規定している。

しかしながら、本件移送取扱所の崎守トンネルでは現場において任意に運転し、或いは遠隔運転により強制換気を行うほか自然換気用ガラリを設けるとされているが、本件送油管を埋設した上に盛土をし、その盛土部に自然換気用ガラリが設置されるため換気の用をなさないし、また原油漏えい時に発生する可燃性蒸気の濃度が爆発下限界の二分の一以下の濃度となるよう換気扇容量を決定したとされているが、吸排気を開始してから何時間後に右の濃度になるか明らかにされていないから、右の必要な措置が講じられているとはいえず、右規定に違反している。

(16) 規則第二八条の二四は、不等沈下、地すべり等の発生するおそれのある場所に配管を設置する場合は不等沈下、地すべり等により配管が損傷を受けることのないよう必要な措置を講じ、かつ、配管に生じる応力を検知するための装置を設置しなければならない旨規定している。

しかしながら、本件移送取扱所においては、伊達市道黄金一号線大谷地付近は不等沈下の発生するおそれのある場所であり、伊達市道黄金一号線石川町寄り、館山トンネル出口側付近及び室蘭市崎守町の斜面は地すべりの発生するおそれのある場所であるにもかかわらず、右の必要な措置が講じられておらず、右の検知装置も設置されていないから、右規定に違反している。

(17) 規則第二八条の二七は、配管等の溶接部は放射線透過試験等を行い、これに合格するものでなければならない旨規定している。

しかしながら、本件移送取扱所においては本件送油管の本管の溶接部の全部について試験をせず抜取り試験をしただけであり、かつ、本管とセクト管の溶接部については放射線透過試験が行われていないから、右規定に違反している。

(18) 規則第二八条の三二第五号及び告示第四五条第一号は、漏えい検知口は河川下等に設置する配管であつてさや管その他の構造物の中に設置するもの及び山林原野に設置するものにあつては保安上必要な箇所に、その他の配管にあつては配管の径路の約一〇〇メートルごとの箇所及び保安上必要な箇所に設けなければならない旨規定している。

しかしながら、本件移送取扱所のうち右のその他の配管に該当するものについて漏えい検知口が設置されていないから、右規定に違反している。

(19) 規則第二八条の三三第一項並びに告示第四七条第一項第三号、第四号及び第二項第二号は、山等の勾配のある地域に配管を設置する場合、鉄道又は道路の切り通し部を横断して配管を設置する場合にあつては、保安上必要な箇所に緊急しや断弁を設けなければならない旨規定している。

しかしながら、本件移送取扱所においては、伊達市道黄金一号線、稀府七号線から東二三号線までの区間及び西五号線から西一五号線までの区間の山等の勾配のある地域並びに国鉄室蘭本線及び胆振線横断部などに緊急しや断弁が設置されていない。また、勾配のある地域では最高部及び最低部に緊急しや断弁を設置すべきであるにもかかわらず、崎守トンネルでは最低部である入口側には設置されていない。したがつて、右各規定に違反している。

(20) 規則第二八条の三四及び告示第四九条は、配管には相隣接した二の緊急しや断弁の区間の危険物を安全に水又は不燃性の気体に置換することができる措置を講じなければならない旨規定している。

ところで、右告示は置換すべき対象を「相隣接した二の緊急しや断弁の区間の危険物」と規定しているのであるから、緊急しや断弁を閉じた上でその区間の危険物を除去することができる措置を要請していると解すべきであり、また危険物の除去を短時間で行うためには緊急しや断弁付近に右の区間の容量に見合うプールを設置することが必要である。しかしながら、本件移送取扱所においては右のプールが設置されていないのみならず、本件移送取扱所で採用された危険物除去措置は技術上の著しい困難を伴うものであつて、右各規定に違反している。

(21) 規則第二八条の三五及び告示第五〇条第一号は、配管の径路には二五キロメートル以内の距離ごとの箇所及び保安上必要な箇所に感震装置及び強震計を設置しなければならない旨規定している。

しかしながら、本件移送取扱所においては、感震装置及び強震計は発、着ターミナルに設置されるだけで、軟弱地盤の所、特殊工法を採用した所など右の保安上必要な箇所に該当する場所に設置されておらず、右各規定に違反している。

(四) 本件移送取扱所はその周辺地域の環境破壊を引き起こすから、本件処分は違法である。

本件工事により、或いは地中の本件送油管の存在により、地下水流が変化し、そのため、一部の地域は湿地化し、また一部の地域は乾地化し営農等に重大な障害を及ぼすほか、土地の陥没、砂質地盤の液状化現象、地すべり、崖崩れ、山崩れ、土砂流出などが発生する。

また、本件送油管は常時摂氏六〇度(以下においては摂氏を省略して温度を表示する。)に加温され、異常時にはそれ以上に加温されるので、周囲の土中温度を上げ、農作物などに悪影響を及ぼす。

3  原告らは、以下に述べるとおり本件処分の取消しを求める原告適格を有している。

(一) 原告らは、いずれも伊達市に居住する者であつて、本件送油管の径路と原告らの住居との位置関係は別紙図面に表示したとおりであり、原告らの住居から本件送油管までの最短距離は次のとおりである。

原告名   距離(メートル)

松田静江     三〇〇

斉藤文雄     三〇〇

安田征一   一、〇〇〇

佐々木弘     九〇〇

正木洋    一、九〇〇

田中義昌   一、二〇〇

成沢彰男   一、三〇〇

齋藤稔    一、五〇〇

千石正志   五、〇〇〇

(二) 原告らは、本件移送取扱所が設置されることにより、或いは伊達発電所の操業により、以下のとおり重大な被害を受けるおそれがある。

(1) 本件送油管は、2(二)で述べたように、破損の可能性を有している。

本件送油管が破損して原油等が漏えいし爆発、火災が起きると、大量の煙、有毒ガス、引火性ガスが発生し、風向きによつては原告らの住居に到達し、火気が存在すればそこで二次火災が発生する。

ところで、本件送油管は、室蘭市陣屋町の埋立地にある発ターミナルから崎守町の市街地を通り、伊達市を取り囲むようにして伊達発電所の着ターミナルに向うものであつて、途中標高五〇ないし八〇メートルの所を六か所通り、大小二七の河川を横断する。ことに牛舎川から気門別川までの間では、おおむね標高二五ないし三五メートルのところに設置されており、原告らの居住地域の標高はおおむね五ないし一〇メートルであつて、その勾配は一〇〇〇分の一〇ないし二〇程度であり、本件送油管と牛舎川、紋別川及び気門別川の各交点から下流の各河川の流速は時速四ないし六キロメートル程度である。したがつて、本件送油管から原油等が漏えいすれば、右勾配のある地形のため地表を流れ下り、或いは右各河川を流れ下り、原告らの居住地域に原油等が到達し、これに火がつけば、原油等に沿つて火が走る。

更に、地中で漏油した場合には、地下水が汚染されるばかりではなく、地下水の流れに従い、本件送油管と気門別川の交点から下流側五〇〇ないし一、四〇〇メートルの間に四か所設置されている伊達市営の上水道用掘抜井戸に混入するおそれがある。

更にまた、漏油が河川を経由して海に入れば、漁業にも被害が生じる。

(2) 本件送油管が存在することにより、原告らはいつ爆発、火災が発生するかもしれないという不安感からいらだち、不眠症などの健康上の被害を受ける。

(3) 本件移送取扱所が完成し、伊達発電所の操業が始まれば、原告らは排煙による大気汚染の影響を受け、また、温排水による漁業被害も生じる。

(三) 以上のような被害を原告各人別に要約すると、別紙予測被害一覧表記載のとおりである(同表の○印を付した項目の被害を、該当の原告が受けることを示す。)。原告らは本件処分の直接の当事者ではないが、本件処分によつてこのような被害を受けるおそれがあるから、その取消しを求める原告適格を有する。

よつて、原告らは本件処分の取消しを求める。

二  本案前の申立ての理由

原告らは、本件処分について取消訴訟を提起する原告適格を有しない。

1  行政処分には、いわゆる公定力が認められ、行政庁の認定判断するところに誤りがあり、その効力が結局は否定されるべき場合であつても、行政庁の認定判断に基づいてされた処分は、一応妥当力をもち、処分の相手方は、法的に、これに拘束され、これに服しなければならない。このような公定力を有する処分の効力を争い、その公定力を排除するために認められた特殊の訴訟形態が取消訴訟である。したがつて、違法な行政処分によつて権利利益を侵害された者がその侵害を排除するためには、取消訴訟によつて行政処分の公定力を排除しなければならない。これが、取消訴訟の目的は当該行政処分によつて生じた違法状態を排除することにより特定の国民の個別、具体的な権利利益を救済することにあるといわれている所以である。

ところで、一般に、行政処分の名あて人でない第三者でも当該行政処分によつて権利利益を侵害されたものは当該行政処分の取消訴訟を提起することができるといわれる。しかし、前述したように、取消訴訟の機能が行政処分の公定力の排除にある以上、取消訴訟を提起する第三者も当該行政処分の公定力によつて権利利益の侵害の受忍を強制されるものでなければならない。

本件処分は、原告らに生命、身体、財産に対する危険の受忍を強制するものではなく、この面において公定力を有するものでないことは当然である。したがつて、本件処分が有効に確定し、これを取消し得なくなつた後においても、もし第三者たる周辺住民の生命、身体、財産に対する侵害の差し迫つた危険があるのであれば、周辺住民は本件移送取扱所設置者に対して、直接、適切な措置等を要求する民事訴訟を提起しうるのであつて、原告らには本件処分の取消しを求める利益がなく、原告らは原告適格を有しない。

2  また、抗告訴訟は違法な行政処分に対する権利救済の制度であるから、行政事件訴訟法(以下「行訴法」という。)第九条の「法律上の利益を有する者」とは当該行政処分の取消しによつて回復すべき自己の法律上の利益を有する者、すなわち当該行政処分によつて自己の権利又は法律上保護された利益を侵害され、又は必然的に侵害されるおそれのある者に限られるというべきである。そして、右にいう法律上保護された利益とは、当該行政処分の根拠となつた実体法規により個別的、具体的に保護された利益を指すと解すべきである。

したがつて、原告らが本件処分の取消訴訟について原告適格を有するか否かは、本件処分の根拠となつた法第一一条第一項等の実体法規の解釈によつて決せられることとなる。

(一) 移送取扱所設置許可は、申請者に対して一定の移送取扱所を設置し得る法的地位を付与する処分であり、移送取扱所による災害を防止するために法等が予定している規制手段の一部であつて、安全確保のための一連の段階的、複合的規制の冒頭に位置している。そして、規制の機能面から見れば、右許可処分は、移送取扱所の位置、構造及び設備の設計に対する規制を分担する手続きであり、後続手続との関係から見るならば、申請者に対し規制手続の次段階に進み得る地位、すなわち設置許可を受けた特定の移送取扱所について当該移送取扱所の設置の工事計画の認可申請をなし得る地位を与えるにとどまるものである。したがつて、移送取扱所設置許可は、それのみでは移送取扱所の設置工事をし、或いは移送取扱所を使用しうる地位を申請者に取得させるものではないから、それによつて直接周辺住民の利益が侵害されることは性質上あり得ないといわなければならない。

また、移送取扱所の使用等によつて周辺住民に被害が生じるというのであれば、被害により密接な関係にある移送取扱所の使用前検査合格等の処分について周辺住民にこれを争う原告適格を認めるか否かが問題とされれば足り、設置許可の段階から周辺住民にその違法の有無を争わせる実益に乏しいといわなければならない。

右に述べたことからすれば、法第一一条第一項は、移送取扱所の周辺住民である原告らの利益を保護することによつて、同人らに移送取扱所設置許可の取消訴訟提起の資格を認めたものとは到底解されない。

(二) また、法第一条によれば、法の目的は、「火災を予防し、警戒し及び鎮圧し、国民の生命、身体及び財産を火災から保護するとともに、火災又は地震等の災害に因る被害を軽減し、もつて安寧秩序を保持し、社会公共の福祉の増進に資する」というものであり、法第一一条第二項の規定も危険物を貯蔵し、又は取り扱う製造所、貯蔵所又は取扱所による災害の防止という見地から必要な規制を行うことを目的としているものであるから、移送取扱所設置許可の根拠となる実体法規が「移送取扱所による災害を防止して公共の安全を図る」という公益の実現を直接の目的としていることは明らかである。

問題は、法が移送取扱所の周辺住民である各個人の生命、身体及び財産を個別的、具体的に保護する趣旨を含むか否かである。

法第一一条第一項の規定による許可については、関係都道府県知事又は関係市町村長は意見を申し出ることができる(法第一一条第三項、第四項)が、関係住民の意見を聴取すべき機会を定めた規定は存せず、政令にも関係住民の個別的、具体的利益の保護について特別の定めがなく、移送取扱所の設置許可申請書にも関係住民の利益に関する記載は要求されていない(政令第六条、第七条)。

右のような法の規定に鑑みれば、法の目的は火災等による災害防止という公共の安全を図ることにあり、その結果、関係住民の利益が保護されることになるが、右の住民の利益は、公益保護の結果として生じる事実上の利益ないしいわゆる反射的利益にとどまるものと解すべきである。

なお、火災等の災害の防止という公益は多数人の生命、身体及び財産という個人的利益(私益)の集合したものと解すべきであるとしても、右の「災害防止」という観念は、特定の個人が直接利益の主体となり得るような個別性を帯びたものではなく、広く公共の利益の維持を目的とするものであることは明らかであり、「災害の防止」という公益を確保することによつてその結果必然的に特定の個人、例えば移送取扱所付近の具体的な個々の住民の安全も当然に確保されるという関係になるのであるから、このような個人的利益は公益に完全に包含され、そこに解消されてしまう性質のものである。

したがつて、法第一一条第一項等の規定は移送取扱所による災害の防止という公益の保護を目的とするものであつて、それ以上に移送取扱所周辺住民の私益を個別的、具体的に、かつ、公益から判然と区別されるものとして保護しているものでないことは明らかであり、周辺住民には移送取扱所の設置許可について取消訴訟を提起する原告適格はない。

3  仮に、法第一一条第一項等の規定が周辺住民の生命、身体及び財産を火災等の災害から保護することをも目的としていると解したとしても、本件移送取扱所は、必要にして十分な強度及び構造を有する送油管を採用し、各種の保安設備等を設け、かつ、厳重な施工、監理の下に設置された上、厳格な検査を受け、更に、適切な保守、運用がなされるものであるから、十分な安全性を有することは明らかであり、本件送油管の破損によつて原告らに被害が生じる蓋然性はなく、原告らは本件訴えについて原告適格を有しない。

(一) 本件移送取扱所は、参加人の伊達発電所で使用する燃料油を室蘭市陣屋町の発ターミナルから伊達発電所構内の着ターミナルまで送油ポンプで圧送するものであり、最大常用圧力は一平方センチメートルあたり二七・五キログラム、送油能力は一時間あたり二八〇キロリツトル、送油時間は一日あたり一四時間である。

(二) 送油管の本管として使用する鋼管の強度、送油管の構造及び設置方法並びに本件移送取扱所の保安設備等について

本件移送取扱所は、強じんな鋼管を本管として採用する等十分な強度を有するよう設計された構造の送油管を適切な方法をもつて設置するとともに、必要な保安設備等を設けるものであるから、その構造、設備において十分な安全性を有するものである。

(1) 送油管の本管として使用する鋼管の強度

送油管の本管として使用する鋼管は、世界的に実績のあるAPI規格五LXの強じんなものであつて、その強度についてみても、鋼管に常時作用する主荷重である内圧、土圧、自動車荷重、温度変化の影響等、一時的に作用する従荷重である地震の影響、他工事による影響等によつて生じる外力に対し、十分耐え得る強度を有するものである。

ちなみに、送油管の本管として使用する鋼管は、二〇トン級の大型車両の通行による荷重等についてみても十分耐え得る強度を有するよう設計されており、また、地震による外力に対してみても、伊達地方に過去最も大きな影響をもたらした明治四三年の有珠山地震と同程度の規模の地震に対しても十分耐え得る強度を有するものである。

(2) 送油管の構造

送油管の構造は、外径三一八・五ミリメートル、肉厚(直管部)八・七四ミリメートル(曲管部)九・五ミリメートルの鋼管を本管として用い、その表面を防錆塗料で塗装し、外周を水を通しにくく、かつ、断熱効果のある硬質発泡ポリウレタンフオームで覆い、更にその外側を防水性、耐久性、耐腐食性に優れたFRVで外装したものである。

また、送油管は、設置する場所の地形、地質等の状況によつては、FRVに代えて本管と同等の強度を有する鋼管をもつて外装する二重の配管構造を採用しているものである。

なお、道路下を横断する等の特殊な場所においては、さや管内に送油管を設置することとしている。

(3) 送油管の設置方法

ア 本管の接合に当たつては厳重な溶接施工要領等に基づき有資格者が被覆金属アーク溶接により行い、また、溶接部分については、すべて放射線透過試験等により検査し、溶接が確実に行われていることを現認することとしている。

なお、送油管のすべてにわたり最大常用圧力の一・五倍以上の圧力で水による耐圧試験を行うこととしている。

イ 送油管の設置方法は次のとおりである。

(ア) 一般埋設部(道路下、民有地、その他)

一般埋設部の送油管は、開削工法により用地境界から一・五メートル以上離れた地表からおおむね一・二メートルないし一・八メートルの深さの位置に埋設する。

(イ) 地上配管部(発、着ターミナル内)

地上配管部の送油管は、地上にコンクリート架台を設けこの上に設置する。

(ウ) 道路横断部

道路横断部の送油管は、開削工法又は推進工法により地下に敷設されたさや管内に設置する。

(エ) 線路横断部

線路横断部の送油管は、推進工法により地下に敷設されたさや管内に設置する。

(オ) 河川横断部

河川横断部の送油管は、専用橋による場合にあつては橋梁上に取り付けたさや管内に設置し、伏越しによる場合にあつては開削工法又は推進工法により計画河床高から約二メートル以上の深さの位置に埋設されたさや管内に設置する。

(カ) トンネル部(専用隧道内)

崎守トンネル内の送油管は、一般埋設部と同様の方法により設置する。

館山トンネル内の送油管は、地上配管部と同様の方法により設置する。

(4) 本件移送取扱所の保安設備等

本件移送取扱所の保安設備等として、運転状態監視装置、安全制御装置、圧力安全装置、漏えい検知装置、緊急しや断弁、感震装置及び強震計、電気防食装置、標識等を設置する。

ア 運転状態監視装置

(ア) 送油管系の運転状態を監視する装置

(イ) 送油管系の圧力又は流量の異常な変動等の異常な事態が発生した場合の警報装置

イ 安全制御装置

(ア) 圧力安全装置、漏えい検知装置、緊急しや断弁、感震装置及びその他の保安装置の制御回路が正常であることが確認されなければ送油ポンプが作動しない装置

(イ) 保安上異常な事態が発生した場合、送油ポンプ、緊急しや断弁等が自動又は手動により連動して速やかに停止又は閉鎖する装置

ウ 圧力安全装置

(ア) 異常圧力放出装置

本管内の圧力が最大常用圧力の一・一倍を超えないように制御する装置

(イ) 圧力制御装置

本管内の圧力が最大常用圧力を超えないように制御する装置

エ 漏えい検知装置

(ア) 流量比較装置

本管系(本管並びにその本管と一体となつているポンプ、弁及びこれらの附属設備の総合体をいう。)内の危険物の送油流量を測定することにより自動的に漏えいを検知する装置

(イ) 圧力パターン検知装置

本管系内の圧力を測定することにより自動的に漏えいを検知する装置

(ウ) 非加温流体静圧測定装置

本管系内の圧力を一定に静止させ、当該圧力を測定することにより漏えいを検知する装置

(エ) 加温流体漏えい検知装置

移送取扱所の運転停止中に重油等の温度変化による体積変化を測定し漏えいを検知する装置

(オ) 微少漏油検知装置

(ア)ないし(エ)の各検知装置で検知できない微少な漏えいを油の電気抵抗を利用して検知する装置

(カ) ガス検知装置

専用隧道内等において可燃性ガスを検知する装置

(キ) レベル検知装置

専用橋の漏えい拡散防止ピツト等内に設置する液面レベル計により漏えいを検知する装置

オ 緊急しや断弁

地震等の異常な事態が発生した場合、直ちに本管内の送油をしや断する装置

カ 感震装置及び強震計

(ア) 感震装置

地震が発生した場合、その加速度を検知し送油ポンプ等を連動させる装置

(イ) 強震計

地震が発生した場合、その加速度を記録する装置

キ 電気防食装置

送油管等の腐食を防止する装置

ク 標識

送油管の埋設位置を表示する位置標識、注意を喚起するための注意標識、他工事等による送油管の損傷を防止するための注意標示

(三) 本件移送取扱所の設置工事について

被告は、本件移送取扱所の設置工事に係る関係法令並びに参加人との間において締結した伊達発電所に係る燃料輸送パイプラインに関する協定書及び同協定細目に基づく検査、環境監視、その他監督指導を的確に行うため定めた「移送取扱所工事施工検査等実施要領」に従い、所部の職員をして、本件移送取扱所の設置工事の状況を調査させ、同工事がその設置計画の内容どおり実施されていることを確認している。

また、被告は、本件移送取扱所の設置工事に関する調査業務を訴外北海道開発コンサルタント株式会社に委託し、本件移送取扱所の設置工事について、溶接に関する事項、掘削、埋戻しに関する事項、送油管の材質等に関する事項等河川及び道路横断部等の工事に関する事項を含む本件移送取扱所の設置工事の全般にわたる事項を専門的な見地から調査させ、同会社から報告を受け、参加人が設置計画の内容どおり本件移送取扱所の設置工事を適切に実施していることを確認している。

したがつて、本件移送取扱所は、十分な安全性を有するものとして設置されることが明らかである。

(四) 本件移送取扱所の完成検査について

被告は、法第一一条第五項の規定に基づき、本管系内の耐圧試験、保安設備等の作動試験等を行い、本件移送取扱所がその設置計画の内容どおり完成していることを確認した上、その使用を認めるものである。

したがつて、本件移送取扱所は、十分な安全性を有するものとして完成し、使用されることが明らかである。

(五) 本件移送取扱所の保守、運用について

参加人は、本件移送取扱所の保守、運用に関し、保安のための巡視及び点検、取扱い作業の基準、補修等の方法、保安監督体制等を内容とする法第一四条の二に規定する予防規程を定め、昭和五三年四月、被告の認可を受け、これを確実に遵守することとしている。

また、参加人は、法第一四条の三の規定に基づき、本件移送取扱所の保安に関する検査を毎年受けなければならないこととされている。

したがつて、本件移送取扱所は、運用に当たつても安全が十分確保されるものである。

(六) 本件移送取扱所の安全対策

(1) 地震対策

ア 耐震設計

参加人は、本件移送取扱所の配管経由地上に三九地点を選定し、同取扱所のFRV外装配管についてはFRV外装材を無視して配管に係るすべての荷重を本管のみで受持ち、また、鋼管外装配管については本管と鋼外装管とが一体となつて荷重を受持つものとして、地震動による表層地盤の変位に伴つて配管に生じる軸方向応力、地震動により配管に生じる円周方向応力及び内圧、自動車荷重、温度変化による影響等並びにこれらの組合せによつて生じる合成応力を総合的に検討して配管の強度計算を行つた。

これに対し、被告が技術審査を委嘱した移送取扱所技術専門員会議(以下「技術専門員会議」という。)は、本件移送取扱所の配管の強度について技術上の基準に照らして検討した結果、告示第一一条ないし第一四条に基づく算定方法により求められた配管に生じる応力度が規則第二八条の五第二項第一号ないし第三号の規定による配管の許容応力度以内であり、技術上の基準に適合していると評価している。

また、参加人は、本件移送取扱所が敷設される伊達、室蘭地方が告示第一三条第二項第一号所定の計算式に用いるべき地域別補正係数として地震統計的に「B地域」に格付けされた係数を用いればよいものとされているが、一段上の「A地域」と仮定した厳しい条件で強度計算を行い、これに対しても配管に生じる最大応力度が許容限度内にあること、更に過去において伊達地方に最も大きな影響を及ぼした一九一〇年の有珠山地震(震度V)を考慮した地震工学的計算による震度の値がA地域に比べて安全側にあり、右と同程度の地震に対しても十分に耐え得る強度を有するものであることを確認している。

なお、被告は、行政的配慮から鋼管外装配管部分については本管のみでも荷重に耐え得るように設計を変更させ、安全性の確保につき更に万全を期したものである。

イ 地震発生時の保安対策

(ア) 本件移送取扱所では、地震に対する保安設備として発ターミナルと着ターミナルにそれぞれ感震装置、強震計を各一台設置しており、発ターミナルと着ターミナル及び配管径路には、全部で九か所の緊急しや断弁を設置している。また、感震装置と緊急しや断弁等の各種保安設備を連動させる安全制御装置を発ターミナルに設置している。

感震装置は、あらかじめ設定した地震の加速度(二五ガル、四〇ガル及び八〇ガル)を感知した場合には、自動的に発ターミナルの安全制御装置に連動して、警報、緊急しや断弁の閉鎖等の措置を講じるものであり、また、強震計は、一〇ガルから一、〇〇〇ガルまでの地震の加速度を感知して記録し、配管等に与えた地震の影響をは握して適切な保安対策を講じるものである。

本件移送取扱所において、発ターミナル及び着ターミナルに設置した感震装置が加速度二五ガル以上の地震動を感知した場合には、発ターミナル制御室に警報を発して運転員の注意を促し、状況に応じて速やかに送油の停止等の必要な措置を講じうる体制をとり、加速度四〇ガル以上を感知した場合には、発ターミナル制御室に警報を発するとともに自動的に安全制御装置に連動して送油ポンプの停止及び発ターミナルの緊急しや断弁の閉鎖が行われ、配管内の圧力が低下してから配管径路及び着ターミナルの緊急しや断弁を閉鎖することとしている。また、加速度八〇ガル以上の地震動を感知した場合には、警報とともに送油ポンプの停止、全ての緊急しや断弁の閉鎖が同時に行われるものである。

技術上の基準では、規則第四〇条の四第一号で、感震装置が加速度四〇ガルを超えない範囲内で設定した加速度以上の地震動を感知した場合には速やかにポンプの停止、緊急しや断弁の閉鎖、危険物を移送するための配管及びポンプ並びにこれらに附属する設備の安全を確認するための巡視等緊急時における適切な措置が講じられるよう準備することと規定し、告示第四四条第二号ホで、四〇ガル以上の加速度の地震動を検知した場合には警報を発することと規定し、規則第二八条の三三第二項第二号及び告示第四八条で、地震加速度八〇ガル以上を感知した場合には自動的、かつ、速やかに緊急しや断弁を閉鎖することと規定している。本件移送取扱所では、前述したとおり加速度二五ガルの地震動を感知して警報を発した場合には送油停止等の準備体制に入り、四〇ガルの地震動に対し送油を停止する等の安全性を十分考慮した保安措置を講じている。

また、運転再開に当たつては、送油を停止したときには配管等の巡視を行い、加速度八〇ガル以上の地震動を受けたときには耐圧試験を実施して設備の安全を確認することとしている。

技術専門員会議は、右各設備について技術上の基準に適合している旨評価している。

(イ) 本件移送取扱所では、地震により、万一、漏油等の事故が生じた場合には発ターミナルに設置した安全制御装置と連動する前記(二)(4)エに記載した各種漏えい検知装置により漏えいを早期に発見し、災害の未然防止に努めることとしている。

右各装置の中でも特に微少漏油検知装置は、他の検知装置では検知困難な少量の漏油を検知できる性能を有するものである。右装置の検知素子は、規則第二八条の三二第一項第五号及び告示第四五条に規定する検知口に該当するものであつて、告示第四五条第一号の規定に従い、本件移送取扱所の配管径路の一〇〇メートルごとに設置するほか、緊急しや断弁点検箱内及び専用橋横断部に設けられた漏えい拡散防止ピツト内にも設置し、漏えいの早期検知を図つている。技術専門員会議は、右装置が十分な微少漏えい検知機能を有し、土中拡散を生じることなく漏えいを自動的に検知できるものと認められる旨評価している。

(ウ) 本件移送取扱所では、地震により、万一漏えい等の事故が生じた場合に、被害を最小限に止めるための対策として、応急漏油止工具、消火器等の資材を積載した巡回監視車を発ターミナル及び着ターミナルに各一台備え、また、発ターミナル及び着ターミナルには、消火活動用資機材、石油除去、処理用資機材等を備えた資機材倉庫を設置するほか、配管径路の中間地点には、消火活動用資機材等を備えた資機材置場を設置している。更に、発ターミナル及び着ターミナルに大型化学消防車を各一台配置し、緊急時に備え万全を期している。

また、緊急時における連絡方法として、発ターミナル制御室と配管径路上一八か所に設置した緊急通報用設備(専用電話)及び発ターミナル制御室と伊達、室蘭各消防署に通じる専用電話を設置し、加えて、技術上の基準に規定はないが、発ターミナルと巡回監視車及び化学消防車に無線電話を設置して対処することとしている。

参加人は、右事項に関連して、運転操作に関する事項及び巡視、点検、検査に関する基準並びに緊急時における通報体制、自衛消防隊による防災活動、応急処置処分等の詳細について定めた法に基づく予防規程を遵守し、本件移送取扱所の適切な運用を図るとともに災害の未然防止等に対処することとしている。

なお、参加人は、本件移送取扱所設置に係る事故及び災害の防止並びに環境保全を図るための協定を北海道と締結し、その後、室蘭市及び伊達市ともそれぞれ同旨の協定を締結している。

(2) 地盤沈下対策

参加人は、本件移送取扱所の配管埋設部について配管の周囲を置換砂で、更にその上層部を大礫を取り除いた掘削土を用いて埋戻しを行つている。右埋戻しに当たつては、置換砂及び掘削土ともに二〇ないし三〇センチメートルごとの数層に分け、転圧機により三回以上転圧し、在来地盤と同程度になるように締固めを行つている。特に置換砂については各工事箇所ごとに現場密度試験を実施し、その締固め状態を確認している。

また、右締固め状態の置換砂中における地下水の移動量は、本件移送取扱所の配管径路上で勾配の大きな箇所においても一日あたり五〇センチメートル程度と推定される。

したがつて、置換砂が地下水により移動し得る空隙が配管の埋設場所に存することはなく、また、置換砂の締固め状態、地下水の移動量からみても置換砂が流出し、空洞が生じることはあり得ないから、空洞形成に伴う本件送油管の破損が発生するおそれはない。

また、本件移送取扱所の設置径路上には、地形、地質、地層等の状況からみて本件送油管に有害な影響を及ぼすような不等沈下、地すべりの発生するおそれのある場所はない。

なお、参加人は本件移送取扱所の完成後に、本件移送取扱所の設置径路沿の一〇地点に沈下測定設備を設け、地盤沈下の有無について観測を行うことにしている。

(3) 腐食対策

本件送油管は、本管の外面を高度の防食効果を有するエポキシ樹脂で塗装され、更にその外側を吸水性の非常に小さい硬質発泡ポリウレタンフオームの保温材及び防水性、耐腐食性等に優れたFRVの外装材で被覆されており、これらが互いに接着されて一つの構造体となつていることから、優れた防食効果を有するものである。また、右対策に合わせて、電気防食措置も施されており、本管内面についても腐食抑制剤の使用により防食に万全の対策が講じられ、腐食のおそれはない。

なお、鋼外装管、さや管についてもポリエチレンライニング或いは電気防食措置が施されている。

(4) 他工事対策

他工事により本件送油管に破損を与える原因としては、主として建設機械等によるものが考えられる。

ところで、本件送油管は、参加人の行つた実験結果によれば、五メートルの高さから自由落下させた掘削機のバケツト(九二〇キログラム)のつめが直接当たつても破孔せず、亀裂などの伴わない単なる変形を生じるだけにすぎないという強度を有するうえ、外装管又はさや管によつて二重、三重に保護されているのであるから、右以上の外部衝撃荷重にも耐え得るということができる。

また、本件送油管の全線にわたり、送油管の埋設を示す注意標示のシートが埋設されるほか、位置標識、注意標識等が設置されて、その存在を外部に表示し、また一日一回以上巡視、点検が行われており、他工事による事故を未然に防止するため万全の対策が講じられていることに加えて、地下埋設の送油管は、そのほとんどが一・五一メートル以深の土中に敷設されており、また他工事の行われることが多いと考えられる場所は、埋設深さをほぼ一・八メートル以上とし、かつ、鋼外装管又はさや管によつて本管を保護し、或いは送油管の上部に鉄筋コンクリート製の防護板が敷設されていることからして、そもそも建設機械等によつて本件送油管の本管が破損するような衝撃荷重を受けることは全くないものといえる。

更に、他工事が行われる場合には、事前に本件送油管の防護方法、掘削、埋戻しの施工方法等について他工事施工者と協議するとともに、工事中にはその現場に立ち会い、本件送油管に影響がないように施工管理、監督を行つているので、他工事により本件送油管が影響を受けることはあり得ない。

(5) 異常圧力対策

本件移送取扱所の送油ポンプからの吐出圧力は、圧力制御装置により最大常用圧力を超えないように制御されているが、仮に何らかの原因により本管内の圧力が最大常用圧力の一・〇五倍を超えた場合には、発ターミナルに警報が発せられ、圧力制御装置の調整など人為的に適切な処置がなされる。また、右装置のほか、本管内の圧力が最大常用圧力の一・一倍を超えないよう制御する異常圧力放出装置が設置されており、同装置が作動したときには、送油が自動的に停止される。以上のとおり、異常圧力に対しては、二重、三重の対策が講じられている。

なお、本管については、製作時に水圧試験(一平方センチメートルあたり約一七〇キロ)、本件移送取扱所設置工事完了時に耐圧試験(最大常用圧力の一・五倍)がそれぞれ行われ、これらに十分耐え得るものであることが確認されている。

(6) 溶接欠陥対策

本件送油管本管の接合は、技術的にも確立された最も信頼できる被覆金属アーク溶接により全て行われている。

参加人においては、適切な溶接施工方法を確立するため事前に溶接施工法試験を行い、その結果に基づき溶接施工要領等を作成する一方、日本工業規格又は日本石油学会基準で定められている資格を有する者で、かつ、参加人が実施した溶接工技量認定試験に合格した者に溶接を実施させている。

なお、参加人は、溶接部全数について放射線透過試験等を実施し、また、被告においても、本管等の溶接が計画どおり実施され、かつ、溶接部の検査あるいは試験が適切に行われていることを確認している。

(7) 誤操作防止対策

本件移送取扱所においては、安全を確認するための条件が満たされなければ送油ができないように制御されている。すなわち、緊急停止或いは保安停止の要因が発生していないこと、運転操作手順に誤りがないこと、電気事故が発生していないこと等の多くの項目が満足されなければ送油ポンプが作動しないこととなつているが、これらの項目の確認は全て送油ポンプの制御回路において自動的に行われており、更に、コンピューターによつて右項目が二重にチエツクされている。

(8) 漏えい拡散防止策

本件移送取扱所においては、以下に述べるような漏えい拡散防止対策が講じられているので、本件送油管の外部に油が漏出することはない。

ア 外装管による拡散防止対策

本件送油管は、FRV或いは鋼管による二重の管構造となつており、更に保温層中には、微少漏えい検知用の油道管及び油溜が設けられ、本管からの漏油は外装管内側さらには油道管に沿つて軸方向に拡散することになるので、外部に漏出することはない。

FRV外装管は、耐久性等に優れており、漏えい拡散防止機能を有しているものであるが、漏油の拡散が大きくなると判断される地盤の箇所における送油管については、更に万全を期するためFRVに代えて本管と同程度の強度を有する鋼管を外装管として使用している。

イ さや管及び漏えい拡散防止ピツトによる対策

主要道路、河川及び線路の横断部、室蘭市崎守町の市街化区域部においては、送油管は鋼管製のさや管内に設置され(三重の管構造)、そのさや管の両端は密閉されており、また、専用橋横断部には漏えい拡散防止ピツトが設けられ、さや管からパイプにより右ピツトに漏油を導くこととしているので、油が外部へ漏出することはない。

ウ 緊急しや断弁による対策

発、着ターミナル、送油管経過地上には、九か所の緊急しや断弁が設置されており、右緊急しや断弁は、感震装置により四〇ガル(震度IVに相当)以上の地震を感知したときや、各種漏えい検知装置により漏油を検知したときないしはその他異常時には、送油ポンプの停止と合わせて直ちに閉鎖されるので、漏油は抑制されるものである。

(七) 以上に述べたとおり、本件移送取扱所はその安全性を第一に考えた万全の配慮がなされており、技術的にみて本件送油管の破損による外部への漏油事故が発生する蓋然性は全くない。

4  仮に以上述べたような技術的見地を全く無視し、観念的に本件送油管が破損することを想定するとしても、以下に述べるとおり、原告らが被害を被ることは全くあり得ない。

(一) 原告らが伊達市に居住する者であつて、その住居の位置及び本件送油管の径路が別紙図面記載のとおりであることは、原告らが請求原因3(一)で主張するとおりである。

(二) しかしながら本件送油管の強度、構造からして、原告らに最も近接する付近に設置されている送油管及び河川横断部に設置されている送油管が破損して油が外部へ漏えいするおそれは全くない。

(1) 原告らの住居のうち本件送油管に最も近接しているのは、原告松田静江及び同斉藤文雄であつて、その離隔距離(直線距離)はおよそ三〇〇メートルであり、その余の原告らの住居は、九〇〇ないし五、〇〇〇メートル離れている。

ところで、右原告らの住居に最も近接する付近の送油管は、約六〇〇メートルにわたつて外装鋼管が用いられた二重の管構造になつており、右外装鋼管は、本管と同じ材質であるAPI規格のものが使用されているので、本管の防護はもとより、漏えい拡散防止のための十分な機能を有するものである。

(2) また、原告安田征一、同佐々木弘、同成沢彰男及び同齋藤稔は、本件送油管が横断するシヤミチセ川、弄月川、気門別川、紋別川或いは牛舎川の下流付近に居住しているが、右横断部より九〇〇メートル以上も下流であり、しかも河川からでも三〇メートル(原告安田と紋別川間)ないし八五〇メートル(原告安田とシヤミチセ川間)離れている。

右河川のうち、シヤミチセ川及び弄月川については伏越し(地下埋設)により、気門別川、紋別川及び牛舎川については専用橋により本件送油管がそれぞれ横断して設置されており、専用橋そのものも外力から送油管を保護する機能を果たしている。河川横断部の送油管は、さや管の中に設置され、いわゆる三重の管構造となつており、特に専用橋横断部では、さや管はパイプにより地中に設けられた漏えい拡散防止ピツトに接続されている。

(3) 前記のとおり、本件送油管の本管が十分な強度を有するよう設計されていること、各種の保安対策が講じられていることに加えて、右のとおり、原告松田静江及び同斉藤文雄の住居に近接する付近及び河川横断部に設置されている送油管が鋼外装管又はさや管で防護されていることなど、その安全性に関して、最も優れた技術的・科学的知見が導入されていることや、伊達地方における自然的条件などからみても、本管及びこれを取りまく外装管ないしこれらを保護するさや管が一挙に破壊され、大量の漏油へと結びつく事故の発生を想定することは不可能であり、そのような大規模な破損が生じることは現実的にあり得ないことであつて、仮に、大量の漏油に至らない本件送油管の破損(ピンホール等)を想定しても、前記漏えい拡散防止対策で述べたごとく、技術的にみて、そのことで油が外部へ漏出する蓋然性は存在しない。

(三) また、仮定の問題として、本件送油管に小規模な破孔が生じ、外部への漏油が生じたとの事例を想定したとしても、原告らの住居と本件送油管の位置関係、原告らの住居付近における本件送油管の構造及び敷設状況、地形、輸送油の状況などから、原告らが被害を被ることがないことは明らかである。

(1) 本件移送取扱所においては、本管から漏油が生じた場合、その漏えい量のいかんにかかわらず漏油は検知され、直ちに送油が停止され緊急しや断弁も閉鎖される。それに伴い本管内の圧力は短時間で低下し、漏えい量も急速に減少していくものであり、また、地下埋設部の送油管はそのほとんどが一・五一メートル以上の深さに敷設されていることから、土中を浸透して地表に達する量もわずかであつて、爆発、火災を起こすことはない。

原告松田静江及び同斉藤文雄についてみれば、同人らの住居付近の送油管はほぼ一・八メートル以深に埋設されており、また、路面が舗装されているので漏油が直接路面に浸出することもなく、更に、本件送油管から原告松田らの住居にかけては、その道路のみをみればゆるやかな傾斜をなしてはいるもののその勾配は極めて小さいことから、漏えい量をもあわせ考えれば、漏油が本件送油管から三〇〇メートルも離れた原告松田らの住居にまで到達することはない。とすると、原告松田らはもとより本件送油管から九〇〇メートル以上離れたその余の原告らの住居まで油が達することなど全くあり得ない。

次に、本件送油管が横断する河川の下流付近に居住する原告安田征一、同佐々木弘、同成沢彰男及び同齋藤稔についてみれば、その住居は本件送油管から九〇〇メートル以上も下流にあり、かつ、河川と右住居との間は三〇メートルないし八五〇メートルもの離隔距離があり、河川の水面と堤防との高低差も約二メートルあり、しかも油が各河川に漏出したとしてもその量は少ないのであるから、原告安田らの住居付近に火の付いた油が到達し、火災、延焼の被害を及ぼすことはあり得ない。

(2) 参加人の伊達発電所は、当初使用燃料油を「重油及び原油」とすることで計画され、本件移送取扱所により右燃料油を輸送することとし、法及び電気事業法の許認可を得ていたが、電気事業法第四三条に基づく使用前検査を受ける際に原油を入手することができず、以後も原油を使用できうる見通しが立たなかつたことから、通商産業大臣の認可(第一号発電設備については昭和五三年一一月一四日、第二号発電設備については同五四年四月二日)を得て、その使用燃料油種を「重油又は原油」から「重油」に変更し、また、参加人は、昭和六〇年八月二八日付で被告に対し、法第一一条の四に基づき本件移送取扱所において取り扱う油種を「重油及び原油」から「重油」とする旨の変更届を提出し、被告はこれを受理した。なお、本件移送取扱所の発ターミナル内の燃料油タンク及び伊達発電所の貯油タンクの設置許可も「重油」に限定されている。したがつて、参加人が本件移送取扱所において「原油」を移送するには法及び電気事業法上の新たな許認可が必要となり、右の許認可なしに参加人が本件移送取扱所において「原油」を移送することは、事実上のみならず法律上も不可能である。

ところで、現在本件移送取扱所で移送されているC重油は、流動点が四〇ないし四五度であつて常温では固化しており、引火点は一二〇ないし一三〇度である。すなわち、重油は、温度が低下するにしたがつて流動性を失い、四〇ないし四五度に達するとほとんど流動しなくなり、また、重油自体が一二〇ないし一三〇度に加熱され、かつ、火源がなければ引火もしないという性状を有する。

C重油の右のような性状を考慮すると、原告らに被害が生じることは皆無であることが一層明らかになる。すなわち、

ア 原告松田静江及び同斉藤文雄の住居付近の送油管は、道路舗装面からほぼ一・八メートル以深の位置に埋設されており、同位置付近の土中温度は夏期において高いときでも二〇度程度である。右のとおりC重油の流動点は四〇ないし四五度であることから、微少漏油により土中に漏出した重油は、急速に温度が低下して流動性がなくなり固化するか、地表に達するとしても、相当長時間を要する。また、重油は、一二〇ないし一三〇度に達しなければ引火せず、更に、燃焼を続けるためにはより高い温度に加熱されなければならない性状を有するのであるから、重油が地表にまで漏出したとしても爆発、火災を起こすことはなく、したがつて、原告松田らに被害を及ぼすことなど到底あり得ない。

イ また、河川横断部の送油管から河川に漏出したC重油は、その性状からして直ちに凝固し、かつ、引火するおそれはないのであるから、火のついたC重油が河川を走り、下流に居住する原告安田征一らに火災、延焼等の被害を及ぼすことなど到底あり得ない。

(四) 以上のとおりであつて、原告らに請求原因3(二)、(三)のような被害が及ぶことはあり得ず、原告らは本件処分の取消しを求める原告適格を有しない。

なお、漏油による上水道汚染の被害、海洋汚染による漁業被害、不安感等の健康被害及び火力発電所の操業による被害は、法第一一条第一項の保護法益とは無関係である。

三  本案前の申立ての理由に対する認否及び原告らの反論

1  本案前の申立ての理由に対する認否

(一) 本案前の申立ての理由1及び2は争う。

(二) 同3の冒頭の主張は争う。

同3(一)の事実は認める。

同3(二)のうち、本件送油管の本管として使用する鋼管がAPI規格五LXのものであること及び本管の外径が三一八・五ミリメートルであることは認めるが、その余は争う。

同3(三)は争う。設置計画どおり施行されていない。

同3(四)及び(五)は争う。

同3(六)(1)は争う。伊達地方に震度V以上の地震は起きないと断定することはできないから、震度Vの地震に耐え得るというだけでは本件送油管の安全性の保障とならない。また、地質等の違いにより震度は著しく異るのであるから、発、着ターミナルに感震装置を設けるだけでは保安上十分とはいえない。なお、微少漏油検知装置の検知素子は、検知口に該当しない。

同3(六)(2)は争う。請求原因2(二)(2)で述べたとおり、置換砂の締固めは不十分であるし、空洞形成、地盤沈下のおそれがある。また、参加人の地盤沈下の測定方法では、絶対的な沈下量を計測できないし、水平方向への移動も計れない。

同3(六)(3)は争う。本件送油管の溶接部分の中には、錆が発生したまま塗装、被覆された部分があり、その部分では既に腐食が始まつている。

同3(六)(4)は争う。他工事により本件埋設管の付近が掘削された場合、掘削前と同じように埋戻しがされず、その近傍の土の性状が変化する結果、地盤の不等沈下、本件送油管の水平方向への移動が生じ、本件送油管破損の原因となる。

同3(六)(5)は争う。

同3(六)(6)は争う。被告の行つた検査は、資料に基づく検査が主であり、しかも全溶接部についての検査は行われていないから、適切に溶接が行われたか否かの判断をすることができず、溶接部の安全性の確認がされていない。

同3(六)(7)は争う。コンピユーターが正常に作動しないときに、運転操作手順に誤りがあつたり、電気事故などが発生したりしても、作業員が「誤りなし」或いは「異常なし」と確認しさえすれば送油ポンプが作動するのであつて、誤操作防止にはなつていない。

同3(六)(8)は争う。本件送油管の本管が破損すれば、本管より強度の小さいFRV外装管は当然破損するし、本管と強度が同程度の鋼外装管も破損するのであつて、漏えい拡散防止対策は万全とはいえない。また、緊急しや断弁は保安上必要な箇所に設置されていない。

同3(七)は争う。

(三) 同4のうち、(一)の事実及び原告らの住居と本件送油管との離隔距離が被告主張のとおりであることは認めるが、その余は争う。

2  原告らの反論

(一) 原告適格の有無の判定にあたり、実体法規の趣旨、目的を唯一の基準とすることは、訴訟要件の審理の段階にいたずらに複雑かつ技巧的な法解釈論議を持ち込み、恣意的な解釈論を助長するだけであるから、裁判所が直截的に紛争事案を見据え、原告が侵害されると主張する利益が裁判上の保護に値するものかどうかを具体的事案に即して判断して、原告適格の有無を判定すべきである。

(二) 仮に、行訴法第九条の「法律上の利益を有する者」とは、取消しを求める行政処分の根拠となつた実体法規により個別的、具体的に保護された利益が当該行政処分によつて侵害され、又は必然的に侵害されるおそれのある者に限られるとしても、本件処分の根拠となつた法第一一条第一項等の規定は、次に述べるとおり、公共の安全という公益とともに、付近住民の生命、身体、財産という私益をも保護していると解すべきである。

(1) 法第一条によれば、法は国民の生命、身体及び財産を火災から保護するとともに、火災又は地震等の災害による被害を軽減し、もつて社会公共の安寧秩序を保持することを目的としているのであつて、法が国民各個人の生命、身体及び財産を火災又は地震等の災害から保護することを目的としていることは明白である。

また、移送取扱所の設置許可について、法第一一条第三項及び第四項は、関係都道府県知事又は関係市町村長は許可権者に対し意見を申し出ることができる旨規定し、付近住民の意見反映の機会を保障している。

更に、法は、物件所有者等に火災予防措置を命じることができ(第三条)、建物の建築等の許可について消防長又は消防署長の同意を要するものとし(第七条)、一定の防火対象物については消防用設備等の設置義務を負わせている(第一七条)。これらの規定が付近住民の生命、身体及び財産を火災から保護することを目的としていることは明らかであり、法が移送取扱所の設置についてのみ付近住民の利益保護を除外したと解すべき理由はない。

したがつて、法第一一条第一項等の規定が付近住民の生命、身体及び財産という私益を保護していることは明らかである。

(2) 移送取扱所の設置許可は、最終的な使用を目的としてなされるものであり、設置許可がなければ工事計画の認可や完成検査もあり得ない。また、工事計画の認可及び完成検査は、それぞれ別個独立の行政処分であるとしても、前者は設置許可どおりの又は設置許可に適した工事計画であるか否かを審査し、後者は設置許可どおりに施工完成したか否かを審査するもので、これらの処分は、設置許可を適正に実現することを担保確認する従たる処分にすぎない。

したがつて、本件移送取扱所についての技術上の基準適合性、安全性の確保及び環境保全は、専ら設置許可の段階で審査されるべきである。

(3) 被告は、参加人が本件移送取扱所において原油を移送することはあり得ないと主張するが、本訴においては、重油だけではなく、原油も移送されることを前提にして審理、判断すべきである。すなわち、

ア 参加人が本件移送取扱所の移送油種を「重油及び原油」から「重油」とする変更届を提出し、被告がこれを受理したとしても、使用油種を「重油及び原油」とする本件処分の効力は存続しているのであり、参加人が原油を移送しようとするときは法第一一条の四に規定する変更届け出をすればよく、変更許可を要しないと解されるし、仮に変更許可を要すると解釈する余地があるとしても、その変更許可は、実質的審査の必要のない、本件処分と一体をなす形式的、確認的性質のもの(受理と同視しうる。)であるから、右変更届及びその受理は、将来にわたつて原油が絶対移送されないとの確実な保障とはならない。

イ 法及び電気事業法に基づく通商産業大臣及び室蘭、伊達両市長の許認可は、本件処分とは別個独立の処分であり、一方が他方を拘束するものではないから、右許認可により本件移送取扱所で移送される油種が重油に限定されているとしても、本件処分の取消しを求める本訴において、原油を審理の対象外とする理由にはならない。

四  請求原因に対する認否及び被告の主張

1  請求原因に対する認否

(一) 請求原因1の事実は認める。ただし、所定の手続を経て本件移送取扱所の径路の一部が変更され、配管の延長は二五・六四九キロメートルとなつている。

(二) 同2(一)のうち、被告が本件移送取扱所の設置についての伊達市長の意見が提出された翌日に本件処分を行つたことは認めるが、その余は争う。

(三) 同2(二)のうち、本件移送取扱所が法第一〇条及び政令第三条に規定されている取扱所のうち移送取扱所に該当すること及び移送取扱所の設置についての法律上の規制が原告ら主張のとおりであることは認めるが、その余は争う。

(四) 同2(三)(1)のうち、原告ら主張の規定が存すること及び本件移送取扱所が設置される道路の中に幅員が五メートル以下のものがあることは認めるが、その余は争う。

同2(三)(2)の事実は認めるが、主張は争う。

同2(三)(3)のうち、原告ら主張の規定が存すること、参加人が本件申請にあたつて、埋設深さを一・五六メートル、送油管の外径を三一八・五ミリメートルとして土圧計算を行つたこと及び応力度の計算においてせん断弾性波速度を標準貫入試験により求められたN値から推定する方法で求めたこと、本件送油管が二か所で鉄道線路の下を横断することは認めるが、その余は争う。

同2(三)(4)のうち、原告ら主張の規定が存すること及び本件移送取扱所においては地上部では曲り管を用い、地下部では土壤拘束により配管の伸縮を吸収するとされていることは認めるが、その余は争う。

同2(三)(5)のうち原告ら主張の規定が存することは認めるが、その余は争う。

同2(三)(6)のうち、原告ら主張の規定が存すること及び本件移送取扱所においては防食被覆として硬質ポリウレタン、FRV、ポリエチレンが用いられることは認めるが、その余は争う。

同2(三)(7)のうち原告ら主張の規定が存することは認めるが、その余は争う。

同2(三)(8)のうち、原告ら主張の規定が存すること、本件移送取扱所においてはセクト管により加温することになつていること及び参加人がセクト管の実験を行つたことは認めるが、その余は争う。

同2(三)(9)のうち、原告ら主張の規定が存すること及び本件送油管が規則第二八条の一二第三号の「その他の地域」に該当する地域に埋設されることは認めるが、その余は争う。

同2(三)(10)のうち原告ら主張の規定が存することは認めるが、その余は争う。

同2(三)(11)の事実は認めるが、主張は争う。

同2(三)(12)のうち原告ら主張の規定が存することは認めるが、その余は争う。

同2(三)(13)及び(14)のうち、原告ら主張の規定が存することは認めるが、その余は争う。

同2(三)(15)のうち、原告ら主張の規定が存すること、崎守トンネルでは現場において任意に運転し、或いは遠隔運転により強制換気を行うほか自然換気用ガラリを設けていること及び原油漏えい時に発生する可燃性蒸気の濃度が爆発下限界の二分の一以下の濃度となるよ、換気扇容量を決定したことは認めるが、その余は争う。

同2(三)(16)のうち原告ら主張の規定が存することは認めるが、その余は争う。

同2(三)(17)のうち、原告ら主張の規定が存すること及び本管とセクト管の溶接部について放射線透過試験を行つていないことは認めるが、その余は争う。

同2(三)(18)ないし(20)のうち、原告ら主張の規定が存することは認めるが、その余は争う。

同2(三)(21)のうち、原告ら主張の規定が存すること及び本件移送取扱所においては感震装置及び強震計は発、着ターミナル内に設置されることは認めるが、その余は争う。

(五) 同2(四)は争う。

(六) 同3のうち、(一)は認め、その余は争う。

2  被告の主張

法第一一条第一項は、製造所、貯蔵所又は取扱所を設置しようとする者は許可を受けなければならない旨規定し、同条第二項は、許可権者は当該申請があつた場合においてその製造所、貯蔵所又は取扱所の位置、構造及び設備が法第一〇条第四項の技術上の基準に適合し、かつ、当該製造所、貯蔵所又は取扱所においてする危険物の貯蔵又は取扱いが公共の安全の維持又は災害の発生の防止に支障を及ぼすおそれがないものであるときは許可を与えなければならない旨規定する。

すなわち、右規定は、許可権者は当該申請に対し許可を与えるか否かの判断に当たつては、「当該製造所、貯蔵所又は取扱所の位置、構造及び設備が法第一〇条第四項の技術上の基準に適合していること」及び「当該製造所、貯蔵所又は取扱所においてする危険物の貯蔵又は取扱いが公共の安全の維持又は災害の発生の防止に支障を及ぼすおそれがないこと」の二つの許可要件を満足するかどうかについて審査を行えばよいことを意味するものである。

したがつて、法第一一条第一項の許可は公共の秩序を維持するという警察目的のために認めた一般的禁止を特定の場合に解除するところの講学上の許可に該当するものであるところ、同条第二項によると、申請が前記二要件を充足している場合にはこれを許可しなければならないとするいわゆる覊束裁量行為に該当すると解される。

そこで、これを本件処分についてみれば、本件申請を受理した被告は、本件移送取扱所の位置、構造及び設備が技術上の基準に適合するか否かについて技術専門員会議に意見を求め、同会議から、本件移送取扱所の位置、構造及び設備は技術上の基準をいずれも十分満足しており、安全性の確保について現段階で考えられる技術的配慮が十分なされているものと判断される等の報告を得たことから、本件移送取扱所の位置、構造及び設備が技術上の基準に適合していると判断するとともに、本件移送取扱所における重油等の取扱いが公共の安全の維持又は災害の発生の防止に支障を及ぼすおそれがないと判断したものである。

以上のとおりであるから、本件処分が適法なものであることは明らかである。

五  被告の主張に対する認否

争う。

第三証拠〈省略〉

理由

一  請求原因1の事実は当事者間に争いがない。

なお、成立に争いのない乙第五号証、第九ないし第一五号証の各1、2(同号証の各2は原本の存在を含む。)、証人北村靖彦の証言(以下「北村証言」という。)により真正に成立したものと認められる乙第一号証によると、本件移送取扱所を構成する配管の総延長は、当初の申請においては二五・七二二キロメートルとされていたが、後に二五・六六二キロメートルに修正され、本件処分後更にルートの手直しなどにより数次にわたり設置計画の内容変更の許可申請がなされ、昭和五三年一〇月七日付の被告の許可により二五・六四九キロメートルとされている(以下において本件処分という場合、このように内容の一部が変更された後のものを指す。)。

二  そこで、原告らが本件処分の取消しの訴えを提起する原告適格を有するか否かを検討する。

1  行政処分取消しの訴えは、当該処分の取消しを求めるについて法律上の利益を有する者に限り提起することができる(行訴法第九条)とされているところ、右の法律上の利益を有する者とは、当該処分により自己の権利又は法律上保護された利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれがあり、その取消しによつてこれを回復すべき法律上の利益をもつ者をいうと解すべきである。そして、右にいう法律上保護された利益とは、当該処分の根拠となつた行政法規が私人等権利主体の個人的利益を保護することを目的として行政権の行使に制約を課していることにより保障されている利益であつて、行政法規が他の目的、特に公益の実現を目的として行政権の行使に制約を課している結果たまたま一定の者が受けることとなる反射的利益とは区別されるべきものであるが、当該行政法規が個人的利益の保護のみを目的としている場合のみならず、公益の実現と合わせて個人的利益の保護を目的としている場合をも含むと解すべきである。

2  そこで、本件処分の根拠となつた法第一一条第一項等が個人的利益の保護を目的として行政権の行使に制約を課している規定か否か検討する。

法第一条は、「この法律は、火災を予防し、警戒し及び鎮圧し、国民の生命、身体及び財産を火災から保護するとともに、火災又は地震等の災害に因る被害を軽減し、もつて安寧秩序を保持し、社会公共の福祉の増進に資することを目的とする。」と規定し、移送取扱所設置許可処分の許可基準を定める法第一一条第二項は、その位置、構造及び設備が法第一〇条第四項の技術上の基準に該当し、かつ、当該取扱所においてする危険物の貯蔵又は取扱いが公共の安全の維持又は災害の発生の防止に支障を及ぼすおそれがないものであるときは、許可を与えなければならない旨規定しているのであつて、法第一一条第一項等の規定が公益の実現を目的として行政権の行使に制約を課していることは明らかである。しかしながら、他方、移送取扱所で事故が起こり、火災、爆発等の災害が発生した場合には、周辺住民の生命、身体及び財産に重大な被害を及ぼすおそれがあり、かつ、右の被害が及ぶ範囲は限定されたものであること、技術上の基準は移送取扱所における事故の発生を防止するため極めて詳細な規定をもつており、周辺住民の住宅との間に設けるべき保安距離など、これによる規制の基準は個別的、具体的であることを合わせ考えると、右の許可基準があることにより保護される個人的利益は個別性、具体性をもつものであつて、公益の中に完全に包摂されうるものではないと解するのが相当であり、法第一一条第一項等の規定は、公益の実現のみならず、火災、爆発等の災害による生命、身体及び財産への被害を受けないという周辺住民の個人的利益の保護をも目的として行政権の行使に制約を課しているというべきである。

したがつて、移送取扱所において発生するおそれのある火災、爆発等の災害により生命、身体及び財産に被害を受け、或いは必然的に受けるおそれのある周辺住民は、当該移送取扱所の設置許可処分の取消しの訴えを提起する適格を有すると解すべきである。

なお、被告は、移送取扱所設置許可処分は、それのみでは移送取扱所の設置工事をし、或いはこれを使用しうる地位を申請者に取得させるものではないから、それによつて直接周辺住民の利益が侵害されることは性質上あり得ないし、移送取扱所の使用等によつて周辺住民に被害が生じるというのであれば、被害により密接な関係にある使用前検査合格等の処分について周辺住民にこれを争う原告適格を認めるか否かが問題とされれば足りる旨主張する。しかしながら、移送取扱所設置許可処分は、移送取扱所についての段階的な法的規制の最初に位置し、当該移送取扱所の設置計画が法第一一条第二項に規定する設置基準に適合するか否かを審査する基本的な処分であつて、移送取扱所の使用を目的とせずにその設置許可申請をする者はあり得ないと考えられること、移送取扱所設置許可処分にあたり許可権者がその使用の際の安全性についても審査を行うことは法第一一条第二項の規定自体から明らかであること、法第一一条第五項、政令第八条第三項の規定によると、使用前の完成検査は完成された設備が右の設置基準に適合している以上合格とされる立前になつていること等に鑑みると、周辺住民の生命、身体及び財産への被害が直接的には工事或いは使用という事実行為によるものであつても、それが設置許可処分に従つた工事、使用によるものである限り、右被害は設置許可処分によるものとして、右周辺住民に設置許可処分の取消しの訴えについて原告適格を肯定するのが相当である。したがつて、被告の主張は採用できない。

また、被告は、本件処分は原告らに生命、身体、財産に対する危険の受忍を強制するものではなく、この面において公定力を有するものではないから、原告らには本件処分の取消しを求める利益はなく、原告らは原告適格を有しない旨主張するので、この点について検討するに、移送取扱所設置許可処分が周辺住民の生命、身体及び財産に被害が生じる場合でも周辺住民にこれを受忍すべき義務を課しているとまで解することはできず、この面において周辺住民に対する公定力を認めることができないことは、被告主張のとおりである。しかしながら、周辺住民がその生命、身体及び財産を侵害されないという利益は、許可制度という枠組みの中において保護されているのであるから、右許可処分が違法であつて右の保護を受けられなかつたという場合には、周辺住民は右許可処分の取消訴訟を提起しうると解すべきである。したがつて、被告の右主張も採用することができない。

3  よつて、本件移送取扱所において発生する可能性のある火災、爆発等の災害により、原告らがその生命、身体及び財産に被害を受けるおそれがあるか否かについて検討する、

(一)  本案前の申立ての理由3(一)の事実は当事者間に争いがなく、前掲乙第一号証、第五号証、成立に争いのない甲第二八号証、第五七号証、乙第二、三号証、第四号証の1、第一六号証の1、2、第一七号証、第一八号証の1、2、第一九号証の1、第二〇ないし第二三号証、第二八号証、第三四号証の1、2、第四二号証、第四五号証、第五六号証、第六八ないし第七五号証及び第八〇、八一号証(乙第三号証、第四号証の1、第一九号証の1、第二一号証、第二三号証、第六八号証及び第七一ないし第七四号証は原本の存在も含む。)、北村証言によつて真正に成立したと認められる乙第一九号証の2、第二四、二五号証、第二六号証の1、2、第二九号証、第三〇号証の2ないし4、第三五号証及び第四三号証の各1、2、第四七号証、第四九ないし第五一号証、第五三ないし第五五号証並びに第五九、六〇号証、北村証言によつて被告主張のような写真であることが認められる乙第六一号証の1ないし3、北村証言並びに検証の結果を合わせると、以下の事実を認めることができる。

(1) 本件送油管は、本管のまわりを硬質ポリウレタンフオームの保温材で覆い、更にその外側をFRV又は鋼管で外装するという三重構造になつている。本管として使用される鋼管は、欧米で使用実績が多く、信頼性の高いAPI規格五LX―X五二、X五六、X六〇の三種類であつて、引張強さ、降伏点(耐力)とも日本工業規格の圧力配管用炭素鋼鋼管のそれを上回つており、参加人が行つた実験によれば、右三種類の中では強度の低いX五二鋼管にあつても、その上に重さ九二〇キログラムのバケツトの爪を三メートル及び五メートルの高さから自由落下させて打撃を加えたところ、へこみは生じたものの破孔には至らなかつた。なお、実際に製造された鋼管は、APIの規格値を一〇ないし二〇パーセント上回る強度を有している。

また、本件送油管の保温材、外装材には耐水性があり、本管を防食する機能も有しているが、更に、本管の外面には防錆塗料を塗布し、また、本管の内部には油溶性腐食抑制剤を注入するほか、流電陽極方式の電気防食装置を設置するなどして腐食を防止することとされている。

更に、本件送油管の本管の接合は、日本工業規格又は日本石油学会の技量認定試験に合格した有資格者のうち、参加人の行う技量認定試験に合格した者が、溶接材料、溶接方法等を詳細に定めた参加人作成の溶接施工作業基準書(乙第三〇号証の2)、溶接施工要領書(乙第三〇号証の3)等に則り、被覆アーク溶接の方法で行つた。参加人は、溶接部全部について放射線透過試験を行つたほか、河川横断部の曲がり部分等特殊な部分については磁粉探傷試験も行い、溶接に欠陥がないことを確認しているし、シヤルピーの衝撃試験により衝撃に対して母材と変わらない強さを持つことも確認している。そして、本件移送取扱所の完成時には、最大常用圧力の一・五倍以上の圧力で耐圧試験を行い、その強度を確認することとされている。

(2) 本件送油管は、専用橋による河川横断部では橋梁の横桁に取り付けられたさや管内に、着ターミナル構内及び館山トンネル内では地上のコンクリート架台上に設置され、その他は地中に埋設されるが、崎守市街地部及び線路、道路、河川伏越横断部などではさや管内に設置される。さや管は日本工業規格による一般構造用炭素鋼鋼管であつて、外部からの荷重に十分耐えうるよう設計されている。

本件送油管の設置径路のうち、館山台地にはいわゆるシラスに似た性質の地盤があるので、右地盤の下部の安定した地盤にトンネルを新設し、本件送油管はそのトンネルの中に設置され、また、館山トンネル出口から着ターミナルまでの間の、とくに長流川河口部は、比較的均等な細砂で構成され、地震の際地盤が液状化する可能性がないとはいえないので、浮上り防止のため本件送油管を長さ五ないし二〇メートルの鋼管杭で支持することになつている。

(3) 参加人が本件送油管の設置径路沿の三九地点で本件送油管の強度計算を行つたところ、内圧、土圧、自動車荷重、温度変化による影響、他工事による影響及び地震による影響などによる発生応力度はいずれも本管の許容応力度を下回つていたし、また、参加人が線路横断部でさや管の強度計算を行つたところ、列車荷重をも考慮に入れた発生応力度はさや管の許容応力度を下回つていた。

また、伊達地方は告示第四条の二〇の規定で地震統計的に「B地域」に格付けされているので、参加人が右規定に従い設計基盤面に入る地震動の加速度を一三〇ガル(八〇ないし二五〇ガルが震度V)として強度計算を行つたところ、地震による発生応力度は本件送油管の許容応力度の九〇パーセント以下であり、A地域と仮定した場合の強度計算(設計基盤面に入る地震動の加速度は一五〇ガル)においても発生応力度は本件送油管の許容応力度の範囲内であつたし、信頼できる記録によれば伊達地方に最も大きな影響を与えたとされている明治四三年の有珠山の火山活動に伴う地震(マグニチユード六・〇程度と考えられる。)を対象とする強度計算においても本件送油管は安全側にあつた。

(4) 専用橋上部工の施工は日本道路協会制定の「道路橋示方書」に準拠して行われ、館山トンネルの施工は土木学会制定の「トンネル標準示方書」に準拠して行われる。

地下埋設を開削工法で行う場合は、当矢板、鋼矢板又はH形鋼横矢板で土留を行つて掘削し、送油管を設置した後その周囲を置換砂で、置換砂の上部を大礫等を含まない埋戻土で埋戻しを行うが、その際巻出し厚は二〇ないし三〇センチメートルとし、各層をソイルコンパクター、タンパー等で三ないし四回転圧することとされている。また、埋戻しにあたつては、一般的にはポンプで排水を行うが、地下水処理のため必要な場合には、砂袋を用いた管床工を施工したり、有孔管や栗石を用いて排水路を設けたりする(工事終了後は排水路の機能が廃止される。)ほか、切込砕石や切込砂利を用いて掘削底の湿潤を防ぐなど十分排水を行うこととされている。そして、各工事箇所ごとに埋戻しの段階で現場密度試験を行つたところ、締固め度はいずれも九〇パーセント以上であつた。

(5) 他工事から本件送油管を保護するため、コンクリート角柱の位置標識を配管径路の約一〇〇メートルごと及び保安上必要な箇所に設置し、また、金属板の注意標識を公衆が近づきやすい場所の配管直近に設置し、更に、本件送油管の埋設径路全線にわたり、その直上三〇センチメートルのところに黄色の合成樹脂製のシートを埋設し、その下に敷設された通信ケーブルが他工事により切断された場合、送油が自動的に停止されることとされている。

(6) 本件移送取扱所には、圧力安全装置として、配管内の圧力が最大常用圧力を超えると圧力調節弁が開き圧力を逃す圧力制御装置及び配管内の圧力が最大常用圧力の一・一倍を超えると圧力を放出する異常圧力放出装置が設置される。

また、漏えい検知装置として、流量比較装置、圧力パターン検知装置、非加温流体静圧測定装置、加温流体漏えい検知装置、微少漏油検知装置が設置される。このうち微少漏油検知装置は、本件送油管からの漏えいが三〇秒あたり二四リツトル程度であれば、漏油の地中拡散を防止しつつ漏えいを検知する機能を有するものである。ちなみに、告示第四四条第二号ロによる警報限界量は三〇秒あたり八〇リツトルとされているから、右装置の能力はこれを十分満足している。

更に、本件移送取扱所は、安全制御装置により、圧力安全装置、緊急しや断弁及びポンプ保安装置の各制御回路が正常であること、運転操作手順に誤りがないこと等の運転開始の条件が満たされないと運転は開始されず、また、圧力異常が発生した場合、発、着ターミナルに設置される感震装置が四〇ガル以上の地震を感知した場合、漏油を検知した場合等には、緊急しや断弁が閉じ、運転が自動的に停止されるなど自動的に制御される。

以上の各装置は、運転員により発ターミナルの制御室で集中監視、制御されるが、運転員を補うものとしてコンピユーターが導入され、全体監視、制御等を行うこととされている。

(7) 万一本件送油管の本管から油が漏えいしたとしても、外装材、さや管が破損しない限りは本件送油管の外部に漏油することはあり得ない。

そして、各種漏えい検知装置により本管からの漏えいが検知された場合には、直ちに緊急しや断弁が閉鎖され、送油ポンプの運転が停止される。その後、スリーブ、クランプなどの応急漏油止工具等を用いて応急補修を行つたうえ、ピグを介して置換水を送水するなどの方法で滞油を除去し、本補修を行い、耐圧試験で漏えいがないことを確認した後に運転を再開することとされている。

また、参加人は自衛消防隊を組織し、災害が発生し、又災害発生のおそれがある場合に、災害の拡大防止又は予防作業を行うこととしているほか、化学消防車、消火器、耐熱服等災害発生時に必要な資機材を常備することとしている。

(8) 被告から本件移送取扱所の設置計画について技術審査を委嘱された技術専門員会議は、本件移送取扱所の設置計画は技術上の基準を十分満足しており、安全性の確保について現段階で考えられる技術的配慮が十分なされていると判断する旨の報告書(乙第二号証)を被告に提出した。

(9) 被告、参加人は、本件工事が適正に行われているか自ら監視、監督したが、更に参加人は訴外北海道開発コンサルタント株式会社に委託して本件工事が設置計画どおり適正に行われているか確認させた。

そして、被告は完成検査をしたうえで完成検査済証(乙第二三号証)を交付し、その後も毎年本件移送取扱所が技術上の基準に適合していると認めて保安検査済証(乙第七一ないし第七四号証)を交付している。

また、参加人は、法第一四条の二の規定に則つた予防規程(乙第二〇号証)を作成して知事の認可を受け、これに基づいて巡視、点検等を行つているほか、本件移送取扱所の設置径路のうち交通量が多く、盛土した国道を横断し、或いはこれと並行する箇所、盛土を造成してその下に本件送油管を埋設した箇所及び地震時に液状化のおそれがある箇所など一〇か所に沈下測定設備を設置して地盤沈下について毎月測定を行つている。

以上の事実が認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

(二)  次に、原告らが主張する本件送油管の破損の原因について検討する。

(1) まず、原告らは地震によつて本件送油管が破損するおそれがある旨主張するので、この点について検討する。

前掲甲第二八号証、乙第二九号証及び乙第三四号証の1、成立に争いのない乙第八七号証、原告齋藤稔本人尋問の結果(以下「齋藤供述」という。)により昭和五二年八月以降の有珠山の火山活動によつて発生した被害状況を撮影したものと認められる甲第四号証の番号〈161〉ないし〈169〉の写真(以下原告ら提出の甲第四号証及び第二四号証の写真は、写真番号だけで表示する。)並びに齋藤供述を合わせると、過去に伊達地方に被害を及ぼした地震の主なものは、有珠山の火山活動に伴う地震であり、その他北海道十勝沖に震源をもつ海洋型巨大地震による影響も受けたことがあること及び昭和五二年八月以降の有珠山の火山活動により有珠山の洞爺湖寄りの地域で家屋の倒壊、道路の隆起等の被害が発生したことが認められ、成立に争いのない甲第一号証によれば、地質学を専攻し、和光大学教授として「地下資源」「開発公害論」等を講じている生越忠は、伊達地方は太平洋底に震源をもつマグニチユードのかなり大きい地震の影響をしばしば受けるおそれのある場所であるうえ、近くには有珠山や昭和新山などの火山があつて火山活動に伴う地震が発生するおそれも多い場所で送油管を敷設することは極めて危険である旨の意見を述べていることが認められる。しかしながら、前掲甲第二八号証、乙第二九号証及び第八七号証によれば、十勝沖の海洋型巨大地震の震源地はいずれも伊達地方から二〇〇キロメートル以上離れていること、有珠山の火山活動に伴う地震による被害は火山の周囲地域に局限されていること及び有珠山の火山活動に伴う地震は予知が可能であることが認められるのであつて、これらの事実に前記(一)(3)認定の歴史上伊達地方に最も大きな影響を与えたとされる明治四三年の有珠山の火山活動に伴う地震に対しても本件送油管が安全側にあることをも合わせ考えると、十勝沖に震源をもつ海洋型巨大地震或いは有珠山の火山活動に伴う地震で、本件送油管の破損をもたらすような地震が起きる蓋然性は低いということができる。

また、成立に争いのない甲第五八号証によれば、生越忠は東京地方裁判所昭和五二年(行ウ)第三一七号事件(以下「別件訴訟」という。)において、内陸直下型地震は活断層の活動によつて起きるものであつて、地震の規模の割には震度が大きく被害も大きいのであるが、地下の活断層の調査は困難であり、地下三キロメートル以深については未だ調査が行われていないので、内陸直下型地震がどこで発生するか予測することは不可能であり、伊達地方にも起きる可能性がないとはいえない旨証言していることが認められるけれども、前掲甲第五八号証によれば、右証言は伊達地方に活断層があるか否かわからないから伊達地方にも内陸直下型地震が起きないとはいえないという程度の可能性を述べたものであることが認められるのであり、しかも、前掲乙第三四号証の1及び第八〇号証によれば、北海道立地下資源調査所の調査結果である「伊達町の地質」(乙第三四号証の1)には本件送油管の設置径路周辺に活断層があるとの記述はなく、その他参加人の調査によつても本件送油管の設置径路の周辺に活断層が存在するとの資料もなかつたことが認められるのであつて、これらの事実に本件送油管の設置径路近辺でかつて内陸直下型地震が起こつたことを認めるに足りる証拠がないことも合わせ考えると、本件送油管を破損するような内陸直下型地震が発生しないと断定することはできないものの、その蓋然性は低いということができる。

なお、前掲甲第五八号証によれば、生越忠は別件訴訟において、告示第四条の二〇に規定する地域区分は既往の地震の震度の大きさのみに基づいて定められたものではないため、「B地域」に格付けされている福井地方で昭和二三年の福井地震の際震度VIIを記録したし、「C地域」に格付けされている大分地方でも昭和五〇年の大分県中部地震(西部地震とも呼ばれる。)の際震度VIを観測したという記録もあるのであつて、「B地域」であるから大きな地震が起きないということはできない旨証言していることが認められるが、伊達地方から遠く離れた「B地域」或いは「C地域」で震度VI以上の地震が起きたからといつて「B地域」に格付けされている伊達地方で震度VI以上の地震が起きることにならないのは自明の理であるし、前記(一)(3)認定のとおり本件送油管が敷設される地域を「A地域」と仮定した場合の発生応力度も本件送油管の許容応力度を下回つているのであるから、右証言をもつて本件送油管を破損するような地震が発生する蓋然性が低いとの前記認定を覆すことはできない。

更に、前掲甲第五八号証によれば、生越忠は別件訴訟における証言の中で、本件送油管の設置径路には地震の際液状化するおそれのある地盤及び地震の被害を受けやすい砂と粘土の粒からできた軟弱な層であるシルト層が存在することを指摘し、また、地震により地盤の隆起、陥没等が起きると送油管が破断する旨供述するが、地盤の液状化については、前記(一)(2)認定のとおり鋼管杭で本件送油管を支持することにより浮上りを防止する対策がとられているし、シルト層については、それが存在することによりどの程度被害が大きくなるか右証言によつても明らかでないばかりではなく、前記(一)(3)認定のとおり本件送油管の設置径路沿の三九地点で行われた強度計算によれば本件送油管の許容応力度が各地点の発生応力度を上回つていたというのであるから、シルト層が存在するからといつて本件送油管の破損のおそれがあるということはできない。また、地震による地盤の隆起、陥没については、本件送油管を破断するような地盤の隆起、陥没をもたらす地震が発生する蓋然性が低いことは先に判示したとおりである。

以上に述べたとおり、本件送油管を破損あるいは破断するような地震が発生しないと断言することはできないが、その蓋然性は低いというべきである。

(2) 次に、原告らは、本件送油管が敷設される地域は地下水量が多く、地下水位も高いので、置換砂を十分締め固めることはできず、また、完成後においても地下水の影響により、或いは本件工事の際の鋼矢板の引抜きなどの影響により地下に空洞が形成され、或いは地盤沈下が生じ、本件送油管が破損するおそれがある旨主張するので、この点について検討する。

〈1〉 まず、地下水の本件工事に対する影響について検討するに、成立に争いのない乙第七九号証及び前掲乙第三号証によれば、本件送油管の設置径路の地下水位の状況は、最高水位時に地表下一メートル以内の区間が延べ約一四キロメートル、地表下一ないし二メートルの区間が延べ約七キロメートル、地表下二メートル以上の区間が約五キロメートルであり、最低水位時において地表下一メートル以内の区間が約三キロメートル、地表下一ないし二メートルの区間が約一一キロメートル、地表下二メートル以上の区間が約一二キロメートルであることが認められるのであるから、本件工事が地下水の影響を受けざるを得ないことは明らかであり、現に、齋藤供述によつて本件工事現場を写した写真であると認められる〈5〉ないし〈11〉、〈16〉ないし〈18〉、〈72〉、〈75〉ないし〈79〉、〈101〉、〈102〉、〈104〉、〈105〉、〈108〉、〈119〉、〈122〉ないし〈124〉、〈141〉、〈146〉、〈160〉、〈187〉、〈188〉、〈302〉ないし〈304〉、〈308〉、〈309〉、〈314〉、〈315〉及び〈317〉並びに齋藤供述によれば、本件工事中に掘削溝に地下水、雨水がたまつたり、会所部で水がたまつたりしていたこと、掘削溝或いは会所部の水をポンプで汲み上げて排水していたこと、置換砂を一応締め固めた後においてもその上に水がたまつていたり、置換砂が水を含んでいたりしたこと、埋戻土を一応締め固めた後においてもその上に水がたまつていたことが認められる。しかしながら、北村証言によれば、地下水位の高低は工事の手間に差を生じさせるだけで仕上り具合に影響を及ぼすものでないこと、工事の一場面で右のような状況が生じても十分水を排除してその後の工事を行つたことが認められ、また、前記(一)(4)認定のとおり各工事箇所ごとに埋戻しの段階で行われた現場密度試験によれば締固め度はいずれも九〇パーセント以上であつたのであり、これらの事実に照らすと本件工事の一場面で生じた右のような状況も置換砂の締固めの不十分等の本件工事の不完全さをもたらすものではなかつたことは明らかである。そして、他に本件工事が地下水の影響で不完全になつたことを認めるに足りる証拠はない。

〈2〉 地下水の影響により、地盤沈下或いは地盤陥没が発生するか検討する。

前掲甲第一号証及び齋藤供述により真正に成立したと認められる甲第四五号証によれば、生越忠は、本件工事による地下水脈の切断、地下水の大量汲上げにより地下水の賦存状態が変化し、ある場所では地下水が枯かつし、ある場所では湿地化するおそれがある旨の意見を述べていることが認められ、また、前掲甲第五八号証によれば、生越忠は、別件訴訟において本件工事或いは本件送油管が設置されることにより地下水流が変化し地下水の枯かつ或いは湿地化が生じることが予想されたし、現に本件工事中及び本件工事後に地下水の枯かつが生じている旨及び地下水の枯かつは地盤沈下のいわば前段症状といわれている旨証言していることが認められ、齋藤供述中には本件工事が行われたため井戸の枯れたところが二か所ある旨の供述部分がある。しかしながら、生越忠及び原告齋藤稔が他の工事現場における現象或いは本件工事前にはそのような現象が生じていなかつたということからの単なる推測に基づいて右のように述べていることは前掲各証拠自体から明らかであるし、前掲乙第八〇号証によれば、参加人は周辺住民から井戸水が枯れ或いは井戸水の水位が下がつたとの申入れを何件か受けたが、本件工事の影響によるものか否か確認できないものがかなりあつたことが認められるのであつて、仮に右のような現象が生じているとしても、そのことと本件工事或いは本件送油管の設置との関連性を肯定するに足りる的確な証拠はないし、右のような現象が生じているからといつて直ちに本件送油管の破損をもたらすような地盤沈下が発生するおそれがあるということもできない。

また、前掲乙第八〇号証、成立に争いのない甲第五六号証及び北村証言を合わせると、本件移送取扱所の置換砂の透水係数(一秒あたりの流速をセンチメートル単位で表示したもの)は10-3のオーダーであるが、参加人が本件移送取扱所の設置径路沿の二六地点で行つた現場透水試験の結果によれば各地点の透水係数は10-3から10-7のオーダーであり、10-7のオーダーのところが一地点、10-6のオーダーのところが五地点であつたことが認められ、他方、前掲甲第五八号証によれば、生越忠は、別件訴訟において置換砂の透水係数が在来地盤のそれに比べて大きいところではそこに地下水の新しい水路が形成され、流速も速くなつて置換砂が流失して空洞が形成され、場合によつては陥没が起きることがある旨証言していることが認められる。しかしながら、北村証言によれば、参加人が行つた計算結果によれば本件送油管の設置径路のうち最も勾配の大きいところでも置換砂中の地下水の移動量は一日あたり五〇センチメートル程度であつたことが認められ、また、前掲乙第八〇号証によれば本件移送取扱所が完成した後二か所で掘り起こしをしたが本件油管の埋設時と状況に変化がなかつたことが認められるのであつて、これらの事実に鑑みると、一概に置換砂と在来地盤の透水係数の差が置換砂の流出をもたらすということはできないのであつて、生越忠の右証言部分は採用できない。

なお、齋藤供述によつて本件送油管の埋設後にその埋設場所の周辺を写した写真であると認められる〈30〉、〈34〉、〈37〉、〈39〉、〈125〉ないし〈128〉、〈151〉、〈212〉、〈249〉ないし〈251〉、〈257〉、〈318〉ないし〈322〉、〈338〉、〈339〉及び〈347〉並びに齋藤供述によれば、本件送油管の埋設後にその埋設場所周辺の道路面に亀裂が生じたり、路肩に亀裂、陥没が生じたりした場所があり、未舗装道路の路面に水たまりが発生していた場所もあつたことが認められるが、これらの現象がいかなる原因で発生したか明らかでないのである(厚告齋藤は、本件工事以外の原因については検討していないが、他の工事は行われていなかつたから右の現象は本件工事が原因となつて発生したと考える旨及び右の現象は埋戻しの際の締固めの不十分或いは置換砂の流出による空洞の形成を推定させる旨供述しているが、右各供述は科学的根拠に基づくものではなく、単なる推測を述べるにすぎないものであるから採用することはできない。)から、右の現象が発生したことを根拠として本件送油管が破損するおそれがあるということは到底できない。また、齋藤供述によつて本件工事後に本件送油管の埋設場所に近接する安井宅の塀を写した写真であると認められる〈202〉、前掲甲第五八号証及び齋藤供述によれば、本件工事後に安井宅の塀に亀裂が生じ、それを修復した後にまた亀裂が生じたことが認められるが、他方北村証言によれば、安井氏自身が塀の基礎工事が十分でなかつたため本件工事前から亀裂が生じていたことを認め、右の亀裂の問題は解決済であることが認められるのであつて、右の亀裂が生じているからといつて地盤沈下が起きているということはできない(齋藤供述中の本件工事前には亀裂がなかつたとの供述部分及び甲第五八号証中の亀裂の原因は地下水の枯かつに伴う地盤沈下であるとの証言部分は前掲北村証言に照らし採用できない。)。

〈3〉 本件工事の際の鋼矢板の引抜きにより地下に空洞が生じるか否か検討するに、齋藤供述によつて本件工事現場を写した写真であると認められる〈24〉、〈25〉、〈94〉、〈112〉ないし〈114〉、〈184〉、〈185〉及び〈337〉並びに同供述によれば、本件工事の際鋼矢板を引き抜いた跡に穴ができ、そこに水がたまつているところもあつたことが認められるが、そのことと地下の空洞の形成との関連性を認めるに足りる証拠はない。なお、齋藤供述中には、鋼矢板を引き抜いた跡の穴に置換砂が出てきていたからその部分に空洞が形成されていることが予測される旨述べている部分があるが、前掲の各写真によつても鋼矢板の引抜跡に置換砂が存在するとは認められないし、置換砂が掘削溝の下部から鋼矢板の引抜跡に出てくるとは考え難いので、齋藤供述中の右の部分を採用することはできない。

以上判示したところによれば、地下に空洞が形成され、或いは地盤沈下が生じ、本件送油管の破損にいたるような事態が発生する蓋然性は極めて低いというべきである。

(3) 更に、原告らは本件送油管の設置径路には軟弱地盤があるため、地盤が不等沈下し、その結果本件送油管が破損する可能性がある旨主張するので、この点について検討する。

前掲甲第一号証及び第四五号証によれば、生越忠は右の原告らの主張に沿う意見を述べていることが認められるところ、前掲各証拠によれば、生越忠が軟弱地盤で地盤沈下が起きる原因として考えているところのものは、地下水の影響、鋼矢板の引抜きの際の振動、地表を通過する車両の影響などであることが明らかである。しかしながら、先に判示したとおり、地下水の影響により地盤沈下が起きるおそれがあるとは認められず、また、埋戻しの際に十分締固めが行われているのであるから、鋼矢板の引抜きの際の振動、地表を通過する車両の影響などで地盤沈下が起きる蓋然性も高いとはいえないのであるから、右の生越忠の意見を採用することはできない。

また、前掲甲第四五号証によれば、生越忠は本件送油管の設置径路には地盤沈下を起こしやすい泥炭層が存在するにもかかわらず、参加人はこれを無視ないし軽視している旨の意見を述べていることが認められる。しかしながら、前掲乙第三号証(後記採用しない部分を除く。)、第三五号証の1、第五六号証及び第八〇号証によれば、参加人は本件送油管の設置径路についてボーリング調査等の地盤調査を行つたほか、既存の文献を参考にするなどして本件送油管の設置径路の地盤の性質に十分考慮を払い、大谷地付近の表層に泥炭層が認められたところでは泥炭層を取り除いたうえで本件送油管を設置したことが認められる(なお、乙第三号証には本件送油管の設置径路付近では泥炭は現出していないとの記載があるが、右記載は乙第八〇号証に照らし採用できない。)のであつて、生越忠の右意見も採用することはできない。

かえつて、前記認定のとおり参加人は本件移送取扱所の完成後その設置径路の一〇か所で毎月地盤沈下の観測を行つており、前掲乙第五一号証及び第五九号証によれば、昭和五七年五月までの観測結果では地盤の沈下量は最高三ミリメートルであつたことが認められるのであつて、本件送油管が地盤沈下により破損する可能性があると認めることはできない。

(4) 更にまた、原告らは館山トンネルが通過する館山台地は地質条件が劣悪で、トンネル自体の安定性を保つことができない旨主張するので、この点について検討するに、館山トンネルは安定した地盤に設置されること及び館山トンネルの施工は土木学会制定の「トンネル標準示方書」に準拠して行われることは先に(一)(2)及び(4)で認定したとおりであるし、また、齋藤供述によつて本件工事中に館山トンネルを写した写真であると認められる〈80〉ないし〈83〉及び〈244〉、前掲甲第五八号証並びに齋藤供述によれば、館山トンネルを新設したために地下水脈が切断され本件工事中のみならず本件工事後も同トンネルから出水が続き、水とともに砂も流出していることが認められるけれども、トンネルから地下水、砂が流れ出ているということだけで当該トンネルの安全性に疑問が生じるということはできないのみならず、北村証言によれば、より安全を期するために設計変更を行い館山トンネルの内部に鉄枠を入れて補強したことが認められるのであるから、館山トンネルの安定性を保つことができないということはできない。

(5) 最後に、原告らは、技術上の基準は不十分であり、かつ、誤りがあるうえに本件移送取扱所は技術上の基準に違反していること、溶接の欠陥、他工事、腐食、異常圧力、凍上凍結による地盤の移動も本件送油管の破損の原因となる旨主張するので、この点について検討する。

技術上の基準が不十分であり、かつ、誤りがあるとの原告らの主張を認めるに足りる証拠はないし、仮に本件移送取扱所が原告ら主張のように技術上の技術に違反しているとしても、右違反が本件送油管の破損の原因となることについての具体的な主張、立証はないのであるから、原告らの右主張を採用することはできない。

また、溶接及び腐食については前記(一)(1)で、他工事については前記(一)(5)で、異常圧力については前記(一)(6)でそれぞれ認定したとおりであつて、これらが本件送油管の破損の原因になるとは到底考えられない。なお、齋藤供述によつて本件工事現場を写した写真であると認められる〈178〉及び齋藤供述によれば、溶接部分に錆が生じていたことが認められるが、前記(一)(1)で認定した事実に鑑みると工事の一過程で溶接部分に錆が生じたとしても、そのことが本件送油管の破損の原因になると考えることはできない。また、原告らは、他工事による地盤沈下、本件送油管の水平方向への移動が本件送油管の破損の原因になる旨主張するが、右主張を認めるに足りる証拠はない。

更に、本件送油管の設置径路の地盤が凍上凍結を起こす可能性があることは公知の事実であるが、地盤の凍上凍結が本件送油管の破損の原因になることを認めるに足りる証拠はない。

以上のとおりであるから、原告らの主張するような事由が本件送油管の破損の原因となると認めることはできない。

(三)  以上判示したところによれば、本件送油管が破損して本件送油管外に油が流出し、その結果火災、爆発等の災害が発生する蓋然性は極めて低いというべきであるが、仮に何らかの理由により本件送油管が破損し油が流出するという事態を想定した場合、各原告についてその主張する被害が生じるおそれがあるか否かについて検討する。

(1) 被告は、本件移送取扱所の移送油種は重油だけであると主張するので、まずこの点について検討する。

前掲乙第七五号証及び第八〇号証、成立に争いのない乙第八号証、第六三号証及び第七八号証の各1、2、第八八、八九号証の各1ないし3、第九〇号証、第九四、九五号証の各1、2並びに第九六号証の1ないし4(乙第八号証については原本の存在を含む。)並びに北村証言を合わせると、本件処分においては、前記のとおり本件移送取扱所の移送油種は原油及び重油とされていたが、参加人は昭和六〇年八月二八日付で移送油種を重油のみとする変更届出書を被告に提出し、被告がこれを受理したこと、発、着ターミナルの屋外タンク貯蔵所の貯蔵油種も当初は原油及び重油とされていたが、変更届により重油のみとなつていること、伊達発電所の油燃焼用機器の使用油種は当初原油又は重油とされていたが、これを重油のみとすることについて昭和五三年一一月一四日付で通商産業大臣の認可を得ていること、参加人は本件移送取扱所の使用開始当初から原油を発電用燃料として入手することが非常に困難な状況にあつたのでC重油のみを移送してきたこと及び参加人の従業員である北村靖彦は右の燃料事情は今後も変わらないので原油を移送することはあり得ないと考えており、伊達発電所の燃料油を供給している日本石油株式会社は今後も参加人が指定する仕様の重油を供給する旨確約していることが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

右認定の事実に重油は原油から製造されるので原油のみが供給可能で重油の供給が不可能となる事態が発生することはないとの公知の事実を合わせ考えると、本件移送取扱所においては今後もC重油のみが移送され、原油が移送される可能性はほとんどないということができるから、少くとも各原告の被害発生のおそれの有無はC重油のみが移送されるという前提で検討すれば足りるものというべきである。

そして、前掲乙第七五号証及び検証の結果によれば、C重油の流動点は四〇ないし四五度、引火点は一二〇ないし一三〇度であつて、常温では固化していること、それ故参加人はC重油を約五四ないし五七度に加温して移送しているのであつて、試みに四九・五度に熱したC重油を二二度の水に入れたところC重油が間もなくタール状もしくは寒天状に固化したことが認められるから、何らかの理由によつてC重油が外部に漏えいしても急速に固化してしまうものと推認される。

(2) 原告らの住居の位置及び本件送油管の設置径路が別紙図面のとおりであること及び原告松田静江、同斉藤文雄の住居と本件送油管との離隔距離は約三〇〇メートルであり、その余の原告らの住居と本件送油管との離隔距離は九〇〇メートルないし五、〇〇〇メートルであることは当事者間に争いがなく、別紙図面によれば本件送油管が横断する河川の下流付近に居住する原告安田征一、同佐々木弘、同成沢彰男及び同齋藤稔の住居は右横断部から九〇〇メートル以上下流に位置していることが認められ、また、北村証言によつて真正に成立したと認められる乙第七七号証によれば、本件送油管との離隔距離の最も小さい原告松田静江の住居の場合、これに最も近接する本件送油管の埋設場所の道路面との標高差は約四メートル、その間の最急勾配は一・六パーセントであることが認められる(検証の結果によれば、原告松田静江の住居と同斉藤文雄の住居は近接しているのであるから、原告斉藤文雄についての数値も右の数値と大差がないと認められる。)のであつて、これらの事実と前記(1)で認定したC重油の性状並びに前記(一)の(6)及び(7)に記載した二重三重の保安機構が準備されていることを合わせ考えると、万一本件送油管からC重油が漏えいするという事態を想定しても、火災、爆発等の災害が起こり、これが同原告らの住宅にまで及んでその生命、身体及び財産に被害を与えるというおそれはないということができる。そしてその余の原告らの住居は本件送油管から九〇〇メートル以上も離れているのであるから、同原告らに右のような被害が及ぶなどということは到底考えられない。

法第一〇条第四項は「製造所、貯蔵所及び取扱所の位置、構造及び設備の技術上の基準は、政令でこれを定める。」と規定し、これを受けた政令、規則、告示には、これらの施設と住宅との間の最小限離すべき保安距離が具体的に定められているが、そのうち移送取扱所と住宅との間の保安距離は、地下に埋設する配管にあつては一・五メートル以上、地上に設置する配管にあつては二五メートル以上とされている(規則第二八条の一二第一号、告示第二四条第一号及び規則第二八条の一六第二号、告示第三二条第一四号)。右の保安距離は、配管内を移送される危険物に起因する火災、爆発等の災害から周辺住民の生命、身体及び財産を保護しようというにあるものと解されるが、原告らの住宅は、法が要求している保安距離をはるかに上回る距離に位置していることが明らかである。

(3) なお、原告らが主張するその余の被害は、前記2で判示したところから明らかなとおり、法第一一条第一項等の保護法益とは直接関係がないものと解されるから、右の被害が仮に発生するとしても、そのことをもつて原告らが本件訴えについて原告適格を有する理由とすることはできない。

(四)  以上判示したところから明らかなとおり、本件移送取扱所において火災、爆発等の災害が発生する蓋然性は極めて低く、まして原告らがこれによりその生命、身体及び財産に被害を受けるおそれはないのであるから、原告らは本件訴えについて原告適格を有しないというべきである。

三  よつて、その余の点を判断するまでもなく、原告らの訴えをすべて不適法として却下することとし、訴訟費用の負担について行訴法第七条、民事訴訟法第八九条、第九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 原健三郎 北澤晶 秋吉仁美)

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